あらすじ
生きたまま船に閉じ込められ、観音浄土を目指す表題作など、井上靖の名作短編を集めた一冊。
老いることの悲しみを見守る
全体的に老いることの悲しみを描いていることが多い作品集でした。しかし悲しいのを悲しいまま書くのではなくて、老いを悲しい部分を含めて受け入れている感じがしてよかったです。
老いに伴う弱さがダメだ、というんじゃなくて、弱さも含めて老いなんだな、という感想を持ちました。
各話感想
「波紋」
善良すぎてどこかずれている船木という男の話。
いい人すぎて周りの人をおかしくさせてしまう船木がちょっと怖いです。でもどこかにいそうなキャラクター設定。
「雷雨」
故郷に帰ってきた幼馴染に会おうとする男。しかし幼馴染は様変わりしていた……。
主人公はどうしようもないんですが、どうしようもないところに共感してしまいます。頭ごなしに否定しないところがよかったです。
「グウドル氏の手套」
曾祖父の妾と育った主人公が、家にあった手套のことを思い出す。
妾という存在が身近でない時代に生きているので、こういうことをさらっと書くことにびっくりしました。時代が違う。
「姨捨」
棄老伝説について調べる「私」。「私」の母は捨てられたいと発言する。
空想の中の姥捨シーンが面白かったです。親って実際にこういうこと言いそうですよね。
「満月」
企業のおじさんたちが月見の会を中心に時の流れの残酷さを見る話。
おじさんであることの悲哀を感じた作品でした。どこで暮らしていようと生きていくのはめんどくさいですね。
「補陀落渡海記」
出口のない舟に乗り込み、観音浄土を目指す羽目になった住職の表題作。
救いのない話ではありますが、どことなくおかしさもあって面白かったです。とってもブラック。
この短編集で一番好きです。
「小磐梯」
噴火をテーマにした作品。
他の人がどんどん逃げ出すのに「まあ大丈夫だろう」と希望的観測で進んでいくところが怖かったです。明らかにヤバい展開でした。
「鬼の話」
死者の頭に鬼の角を生やしてみると、しっくりくる人と来ない人がいて……。
「私」の想像の世界が美しかったです。鬼がテーマであってもあまり怖さは感じませんでした。
まとめ
普段ライトノベルを読むことが多いので、物語の中でおじさんやおじいさんの心に寄り添うのは新鮮でした。
もう少し年を取ってから読んだら、感想が変わりそうな気がします。
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