あらすじ
ベネチアで有名歌手と出会ったギター奏者、整形をするサックス奏者など、さまざまなミュージシャンや音楽好きを主人公とし、内容が少しずつつながりを持っている連作短編集。
しがらみにあふれた恋愛小説
ほぼすべての作品に恋愛を織り込んだ一冊です。しかしロマンティックさとは程遠く、しがらみやプライド、何気ない仲たがいにあふれた恋愛ばかりです。
絶妙な世知辛さゆえに主人公たちに感情移入してしまう短編集でした。
各話感想
「老歌手」
ベネチアのギター奏者が有名歌手に出会う。彼はある依頼をしてきた。
愛し合っているのにそれゆえに別れを選ぶ二人の関係が物悲しかったです。お互いの夢を本当に理解しているからこそこの結末を選ぶのでしょうね。
はたから見るとみじめですが、彼らにとっては当たり前のことなのかもしれません。
「降っても晴れても」
喧嘩をした友人夫婦の仲を取り持つ羽目になった男。しかし状況ははちゃめちゃになっていく。
主人公レイモンドの焦りが伝わってきてはらはらしました。仲立ちを頼むチャーリー自身も問題を抱えていて、状況がどんどん混沌としていきます。どうオチがつくのか不安でした。
「モールバンヒルズ」
実家に帰ってカフェを手伝うギター奏者。彼は観光にやってきた夫婦と出会い……。
何気ないいさかいを繰り返し続ける夫婦関係がなんだか寂しいです。それでも別れないのは、惰性なのか愛情なのか。愛情だと信じていたいですね。
「夜想曲」
売れるために整形をすることになったサックス奏者。彼は整形のために泊まったホテルで有名なミュージシャンの妻と出会う。
「老歌手」に登場したリンディが再登場。悪い人ではないんだけれど、どこか人をいら立たせるキャラ設定がリアルで主人公に共感します。
「チェリスト」
とある町でひっそりと演奏していたチェリストは謎の女性と出会う。彼女はチェリストにレッスンをし始める。
読み終わって虚無を感じました。でも彼らの出会いは無意味ではなかったと思いたいですね。彼女が感受性豊かなのは確かなんでしょうしね……。
まとめ
現実世界の日常をテーマにしながら、はらはらするような展開が多くて面白かったです。
物悲しさを感じるシーンも多かったですが、どこか温かい気持ちで読めました。
夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)
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