今日の更新は、一穂ミチ『きょうの日はさようなら』です。
ライト文芸レーベルの作品をいろいろ読むシリーズ。
あらすじ
双子のきょうだいの明日子と日々人は、いとこの今日子と暮らすことになった。彼女は、コールドスリープによって30年前からやってきた女子高生だった。今日子は、明るく振舞いながらも、30年後の世界でジェネレーションギャップに苦しむ。そんな彼女を双子は好きになっていくのだが……。
地味だけれど面白いSF
すごい伏線があるわけでもなければ、設定が尖っているわけでもない、ドンパチもドラマチックな展開もない。めちゃくちゃ地味なSFなんですけれども、その分堅実に描写を積み重ねていくところが面白いです。
「コールドスリープで30年前から来た少女」今日子のジェネレーションギャップや、ひとり取り残されたような感覚を、とても自然な形で表現しています。
そして彼女と出会った日々人と明日子が、少しずつ彼女を好きになっていき、「何かしてあげたい」と思うようになるのがよかったです。
ひとつひとつのシーンを見れば、取るに足らないような、ささやかな物語なのに、全体として見ると誰かの人生を覗き見たような重厚感がありました。
2025年の、少し未来の話なんですが、微妙な近未来描写と、その時代の高校生たちの会話が「ありそう」と思わせてくれるのも面白かったです。
結局、ハッピーエンドでは終わらない物語でしたが、悲しいだけではない、どこかさわやかさもある終わり方でした。
今日子をきっかけに、不仲だった父親の心の中を知ったり、ささやかな恋を忘れたくないと願ったり。
今日子は小さな嵐のように、双子の人生を変えていったんだなと思いました。
センチメンタルな出会いと別れ。これがしみじみ感じ入るようになってしまったのは、私がそれなりに年を食ったからでしょうか。
自分より若い人が、この作品をどう思うか知ってみたいです。
設定がシンプルなので、SF初心者にも気軽に勧められそうです。
まとめ
すごくよかったです。もっといろんな人に読んでもらいたい作品でした。地味なのに、心に響きます。
調べてみると、著者はもともとはBL作家なんですね。他の本もこういう作風なら、ちょっと読んでみたいです。