ブックワームのひとりごと

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月の船を作る男性が、少しずつおかしくなっていく―森絵都『つきのふね』感想

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つきのふね (角川文庫)

今日の更新は、森絵都『つきのふね』です。

前々から読みたいと思っていましたが、今になってしまいました。

 

あらすじ

中学二年生のさくらは、宇宙船を作る男性、智さんの家に入り浸る。しかし智さんは、少しずつ精神を病んでいく。ストーカー気味の勝田くんとともに、智さんをなんとかしたいと思うが……。

 

訳ありの子どもたちが訳ありの男性のもとに集う

心を病んだ男性が作る月の船、そしてそれをよりどころとする子どもたち。その関係はどこか危うく、そして優しかったです。

さくらは万引きを繰り返していて、万引きグループを抜けてから、友達と疎遠になります。そんな彼女が、智さんの家を居場所にしてしまうのは必然だった気がします。

そして、さくらを追って智さんの家に入り浸るようになった勝田くんも、孤独への恐怖を抱えています。訳ありだからこそ、智さんの優しさに惹かれたし、助けたいと思ってしまうのでしょう。

智さんを助けようと、子どもなりに奔走する中学生たちの姿を読んでいるとはらはらしますし、誰か助けてあげてほしいと思います。ですが、彼らは訳ありなので簡単に助けを求められないんですよね。

そういう意味で、どきどきする話でした。

 

この作品に出てくるキャラクターは「いい子」ではなく、むしろ万引き犯だったりストーカー気質だったりやっかいな癖を持っています。しかしそれぞれに理由があり、葛藤があり、親しい人を助けたいとも思います。だからこそ、読者である私も、「どうにか幸せになってほしいなあ」と思いながら読んでいました。

犯罪を全肯定することはないけれど、そうならざるを得なかった人々の苦しみを描いています。

 

智さんが作る「つきのふね」は飛び立つのか、ということは読んで確かめてもらうとして、ぜひままならない子どもたちの世界を読んでほしいです。

 

まとめ

幸せな話ではない、苦しい小説でしたが、少し希望のある話でした。子どもたちの将来について思いをはせたくなってしまいます。

 また気が向いたらこの作家の本が読みたいです。

つきのふね (角川文庫)

つきのふね (角川文庫)