今日の更新は、小野不由美『華胥の夢』です。
あらすじ・書籍概要
才の麒麟、采麟が体調不良を起こす。どうやら失道らしい……だが、采王のどこが間違っているというのだろうか。表題作『華胥』ほか、過去や日常をまとめた十二国記の番外短編集。
完璧な国では無能の生きる場所がない
『華胥』は十二国記の短編の中で一番好きです。
傾きつつある王朝の中で、王の相談役であり王の弟が殺害され、事態はミステリの様相に。
現代風に言うと「学生の政治サークルが政権を取った末路」ですね。昔読んだときは気づかなかったけれど、主な官吏を身内で占めているところがそもそも問題です。そしてそれに、政権側が気づいていないという。
砥尚は善良で勤勉な王ではあったけれど、やりたいことを現実にする才覚がなかったんですよね。不正をする官吏を首にして人手不足になったり、税金を下げすぎて公共事業がなりたたなくなったり。
王の弟馴行は、兄の施政を評してこう言います。
「兄の思い描く国には、愚かで無能な者の居場所などないんだ。官吏は全て道を弁え、決して私欲に溺れず勤勉で有能でなければならない。民は全て道を守り、善良で謙虚で、働き者でなければならない。そうでない者の存在など、端から織り込まれていないのだから。では、そうでない民はどこへ行けばいいんだ?」
(中略)
「それが兄の目指す国なら、私にとっては牢獄に等しい」
(P227)
私はこのせりふが印象的で、ときどき思い出します。私自身もいい人になれなくて苦しかった人間なので。
しかしこう言う馴行はある意味優しいです。自分が愚かである自覚がなく、他者の愚かさを責める人は多いので。
それ以外だと、十二国記の風来坊ふたりがおしゃべりしている『帰山』も好きですね。長生きしたふたりが傾いていく柳を旅し、王朝の終わりについて語り合います。
こういうゆるっと会話をしているだけの短編が結構好きです。話の内容は全然ゆるくないですが。500、600生きてると王朝が滅ぶのをゆるく語れるんだな……。
まとめ
やっぱり『華胥』は面白かったです。馴行のおかげで思い入れのある作品になりました。
メインキャラたちの日常パートっていいですね。