ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

読書感想

【災害を経験した子どもたちの心を守り育てる】冨永良喜『大災害と子どもの心 どう向き合い支えるか』

あらすじ・概要 3.11を始めとする、災害は子どもの心に何をもたらしたのか。被災地に心のケア要員として向かった人々の視点で、トラウマや親しい人の死の受容について考える。傷ついた子どもたちの具体的なケアの内容とは。 安易な気持ちでアンケートを取ら…

【脳に後遺症を負って家事のできない伴侶を理解した】鈴木大介『されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間』

あらすじ・概要 著者、鈴木大介は、情緒不安定で自傷行為を繰り返す恋人と結婚する。自傷行為は鳴りを潜めたものの、片付けや料理ができない、朝起きてくることができない「お妻様」に強いストレスを感じる。ある日ふたりは短期間で病に倒れ、それをきっかけ…

【限界を迎える前に支援する】田中俊英『「ひきこもり」から家族を考える 動き出すことに意味がある』

あらすじ・概要 家から出られない、働けない人々、ひきこもり。ひきこもりの家族を支援し、ひきこもる人を社会に繋げるには何ができるか。具体的な対策とともに、子どものひきこもりによって孤立する家族について考える。 トラウマを探るのが正解ではない ひ…

【囚われの身になった実妹を彩禍と無色が助ける】橘公司『王様のプロポーズ3 瑠璃の騎士』

あらすじ・概要 彩禍と無色の元に届いた、不夜城瑠璃の結婚の報告。不審に思った彩禍と無色は、不夜城本家のある<方舟>に乗り込む。瑠璃の本心を聞き、瑠璃を取り戻すため、<方舟>と不夜城本家の内部を探る。 本当に実妹だったのか…… ハーレムヒロインの…

【特殊詐欺や女性搾取を行う形なき犯罪組織】NHKスペシャル取材班『半グレ 反社会勢力の実像』

あらすじ・概要 既存の暴力団の上下関係にとらわれず、集合と離散を繰り返す犯罪組織、半グレ。その犯罪の手口や、組織のなりたちとは。NHKのドキュメンタリーを文字にまとめ、半グレたちのその後を加筆した新書。 暴力団とは違う分裂と集合を繰り返す犯罪組…

【美味しい絶滅危惧種のために市民ができること】海辺建三『結局、ウナギは食べていいのか問題』

あらすじ・概要 多くのアジア人に食されていながら、絶滅の危機に瀕しているウナギ。100年後もウナギを食べ続けるために何をすればいいのか。ウナギの科学者が、Q&A形式でウナギの疑問に答える。今までの固定観念を払拭し、科学的な観点からウナギを守る方…

【政府組織の中で反貧困を唱え続ける】清水康之・湯浅誠『闇の中に光を見いだす 貧困・自殺の現場から』

あらすじ・概要 自殺対策に関わってきた清水康之と、貧困対策に関わってきた湯浅誠。政府の貧困政策のこれまでとこれからについて、対談形式で語り合う。政府内部から貧困・自殺の政策を打ち出そうとしてわかったことは、官僚や政治家たちの貧困への理解のな…

【ファンタジーとしてはいいけどミステリとしては物足りなかった】春間タツキ『聖女ヴィクトリアの逡巡 アウレスタ神殿物語』

あらすじ・概要 聖女ヴィクトリアは、皇帝を決める選挙を見届けるために王宮に上がる。皇位継承者の投票により、私生児として育った騎士、アドラスが皇帝に選ばれてしまう。皆が投票のやり直しを要求する中、二番目の皇位継承者、レーゼ皇女が投票のやり直し…

【老いを描いたシリーズ外伝短編集】上橋菜穂子『流れ行く者 守り人短編集』

あらすじ・概要 祖国カンバルから逃れ養父ジグロと旅をしているバルサ。バルサはあるときタンダの村に滞在し、死者の幽霊騒ぎを聞く。その死者は、タンダがなついていたおじさんだった。 老いの哀しみと人生を振り返る瞬間と あとがきによると、短編集全体の…

【京橋のキャバレーで昭和と平成を舞った女】高殿円『グランドシャトー』

あらすじ・概要 義父と結婚させられそうになって逃げだしてきたルーは、京橋のキャバレーグランドシャトーにたどり着く。ルーはそこのホステスとして働くことになった。キャバレーのナンバーワン、真珠はどこか不思議な魅力を持つ女性だった。ルーは寮で真珠…

【カクヨム発、サスペンスと魔法のファンタジー】春間タツキ『聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語』

あらすじ・概要 聖女に選出された理由が不当であると追放されかかった聖女ヴィクトリアは、アドラスという騎士に出会う。彼は、幽霊や精霊が見えるヴィクトリアに「自分が皇子でないことを証明してほしい」と頼んだ。アドラスとともに行動しながら真実を調べ…

【鼻・白・杜子春】YouTubeで芥川龍之介の朗読を聞いたので感想を10本まとめた

久しぶりに朗読が聞きたくなり、YouTubeで青空文庫の朗読を漁っていました。 芥川龍之介の文章の朗読をいろいろ聞いたのでその感想メモです。 ちなみにこちらの朗読プレイリストから視聴しています。 youtube.com 大きな鼻を持つ男が劣等感に苦しむ「鼻」 悪…

【なぜ私はカルトな世界を信じられないのか?】村田沙耶香『信仰』

あらすじ・概要 スピリチュアルな何かを信じられず、「現実」ばかりを見ている主人公は、「カルトをやらないか」という誘いに乗ってみる。表題作ほか、他者に馴染めない、どこか心ここにあらずな人々を描いた短編&エッセイ集。 全体的に「普通」に生きられな…

わりとしっちゃかめっちゃかな日本神道と仏教―義江彰夫『神仏習合』

あらすじ・概要 日本において、神道と仏教は混じり合っていった。これを神仏習合と言う。時の権力者において、神道と仏教はどういうもので、いかにして神と仏は同一視されるようになったのか。朝廷や貴族社会、武士の社会と権力の移り変わりとともに、日本人…

海の哺乳類を解剖する生物学者の日常と、生き物の不思議―田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する~海の哺乳類の死体が教えてくれること』

あらすじ・概要 日本には、実は多くの海の生き物が漂着(ストランディング)している。海の哺乳類を解剖し研究することが仕事の著者が、解剖の仕事や海の生き物の不思議を紹介する。生物学者は何のために解剖をし、どのように体の中を観察するのか……。 科学を…

打ち切りらしいけれどまあ悪くない終わりだったかな―喜多みどり『亜夜子と時計塔のガーディアン 約束のチョコレート』

あらすじ・概要 英国に留学してきてレイのフォグ(下僕)としてこき使われている亜夜子。ある日、レイの親友が「切り裂きジャック」の容疑者として候補に挙がってしまう。調べるうちに判明した、切り裂きジャックの正体とは……。 男女バディものとして面白か…

男女バディミステリかと思ったら百合要素がすごかった―喜多みどり『亜夜子と時計塔のガーディアン 秘密のお茶会』

あらすじ・概要 イギリスに渡り、スタグフォード校に通うことになった亜夜子。スタグフォード学園の優等生であるレジナルドに助けてもらうが、彼は命の恩人であることを盾に亜夜子をフォグ(下僕)にしてしまう。レジナルドにこき使われるうちに、亜夜子は学…

大好きな人と合体したまま配信者魔術師と対決する羽目になってしまった―橘公司『王様のプロポーズ2 鴇羽の悪魔』

あらすじ・概要 もうひとつの魔術師養成機関<楼閣>と交流戦をすることになった<庭園>だったが、そこに魔術師向けの動画サイトで活躍する喰良という少女が現れる。無色のことを「彼ピ」と宣言した喰良は彩禍に勝負を挑む。しかし今無色は喰良と合体しているわ…

アルコールとメンタルヘルスから見る男性のジェンダー―松本俊彦『アルコールとうつ・自殺―「死のトライアングル」を防ぐために』

あらすじ・概要 女性よりも圧倒的に高い男性の自殺率。それにはアルコール依存症、もしくは依存症とは言えないまでも無軌道な飲酒行為が関係していた。アルコールとうつ、そして自殺の関連性を紐解きながら、アルコールと適度に付き合う重要性について語る。…

あるがままでは生きられない人々が行う「告白」―高殿円『カミングアウト』

あらすじ・概要 援助交際をする女子高生、ロリータファッションを卒業するか悩むアラサーOL、セックスレスに悩む主婦、夫の定年退職に何かをたくらんでいる妻。葛藤を抱えるキャラクターたちが、起こした「カミングアウト」とは 告白することが人生を変える …

神々や動物が語る、アイヌの生活、信仰、世界観―知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』

あらすじ・概要 アイヌ民族でありクリスチャンでもあった知里雪惠は、アイヌの人々が歌い継いできた神謡をローマ字で表し、さらに日本語訳した。神々や動物たちが語る、アイヌの人々の生活、そして信仰や世界観とは……。

「多いのに法整備や交通網が遅れている」日本の自転車事情―馬場直子『自転車に冷たい国、ニッポン――安心して走れる街へ』

あらすじ・概要 自転車大国である日本だが、実は自転車にまつわる法整備や、自転車が走りやすい交通設備の点では遅れている。自転車事故を減らすためにはどうすればいいのか。海外の事例や、日本での成功例を挙げつつ、日本の自転車のこれからを考える。 ヘ…

美学の視点から見る視覚障害の人の世界のとらえ方―伊藤亜紗『目の見えない人は世界をどう見ているのか』

あらすじ・概要 生物学の道を諦め、美学を志した著者は、障害を持つ人、特に視覚障害を持つ人の世界の認識に興味を抱く。「見える」ことが前提の社会で、「見えない」人たちはどのようにして周りの状況をとらえているのか。 「違いを面白がる」という可能性 …

鬼の歴史と女性やマイノリティと鬼との関係―小山聡子『鬼と日本人の歴史』

あらすじ・概要 日本人に怖れられ、またユーモラスに描かれてきた「鬼」。その存在はどうやって確立し、文化の中でどう扱われてきたのか。中国から入ってきた鬼の概念から、節分の成立、鬼とマイノリティの関係など、鬼と日本人の歴史について語る本。 女性…

死にかけの女性にガチ恋する主人公が世界を救う―橘公司『王様のプロポーズ 極彩の魔女』

あらすじ・概要 瀕死状態の女性に一目惚れした少年、無色。無色はその最強の魔術師女性彩禍と融合してしまった。彩禍を守るため、魔術師の学校に入学することを受け入れた無色は、最強の能力に戸惑いながらも彩禍として生活する。 リアリティはないが作品の…

図書委員男子ふたりの謎解きと繊細な友情―米澤穂信『本と鍵の季節』

あらすじ・概要 「僕」こと堀川と松倉は、図書委員の高校生。堀川は、松倉と一緒に学校や町で起こる小さな謎を解いていくこととなる。開かずの金庫の鍵を開け、自殺した学生が読んでいた本を探すなどするうちに、堀川は松倉の態度に違和感を持つ。やがて松倉…

自死遺族の苦しみとこれからできる支援―杉山春『自死は、向き合える 遺族を支える、社会で紡ぐ』

、 あらすじ・概要 生きる苦しみによって自ら命を断ってしまう人がいる。自死の悲しみは、当事者だけではなく家族も襲う。自死遺族たちが受けた差別や社会への疎外感、また対策について述べる。自死する人を減らし、自死遺族たちを支援するために、社会は何…

発達障害の夫が壊れかけた家族を再構築する―遠藤光太『僕は死なない子育てをする 発達障害と家族の物語』

あらすじ・概要 大学を出てすぐに若くして結婚し、子どもをもうけた著者。しかし強いうつ症状に襲われ、復帰と休職を繰り返してしまう。家族がばらばらになりそうな中、著者は自分が発達障害であることを知った。発達障害の特性を考えながら、家族を再構築し…

介護殺人の恐ろしさと、防ぐために世の中は何ができるか―毎日新聞大阪社会部取材班『介護殺人 追い詰められた家族の告白』 

あらすじ・概要 社会問題になっている介護のこと、そして思いつめた結果介護していた相手を殺害してしまう人がいる。毎日新聞大阪社会部取材班は、介護殺人をしてしまった人々に取材を申し込んだ。重たい口を開いた彼らが語るのは、壮絶な介護の実態だった。…

トンチキとリアルが交差する京都ファンタジー―森見登見彦『夜は短し歩けよ乙女』

あらすじ・概要 とある乙女に一目ぼれした「私」。「私」は乙女の視界に入ろうと彼女を追いかける。一方乙女も、夜を歩くうちに京都で起こる不思議なできごとに巻き込まれ、その中で大活躍する。 小説でないと生まれえないシーンがある 基本的にリアリティの…