ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

読書感想

科学者だって間違うしその場の雰囲気に流される―藤野豊『強制不妊と優生保護法 "公益"に奪われたいのち』

あらすじ・概要 障害者やハンセン病の人々に不妊手術を施した悪法、優生保護法。その法律はどのように作られ、どのような歴史をたどったのか。優生保護法の現在までを振り返りながら、優生主義の恐ろしさ、愚かさを伝える本。 科学者だって過ちを犯す 薄い本…

コンビニ夜勤をする吸血鬼が女子高生の問題を解決―和ヶ原聡司『ドラキュラやきん!』

あらすじ・概要 吸血鬼の虎木は、コンビニ夜勤をしながら人間世界で生活していた。そんな虎木の家にシスターが転がり込んでくる。彼女、アイリスは人ではない存在「ファントム」を狩る存在だった。そんな中、コンビニ店長の娘が怪しげなライブハウスに通って…

政治学者が学問的正論が通用しない「PTA」の世界で気づいたこと―岡田憲治『政治学者、PTA会長になる』

あらすじ・概要 政治学者・岡田憲治は他人からの強い推薦によってPTA会長になるが、そこは非効率、非論理的な活動に満ち溢れていた。会長としてPTAのスリム化を目指すが、そんな著者に反発する人も多く……。保護者による「自治」の中で、人間同士の政治を考え…

「政治をやる障害者」が語る戦略的にマイノリティ向け制度を作る方法―伊藤芳浩『マイノリティ・マーケティング――少数者が社会を変える』

あらすじ・概要 聴覚障害者として、NPO「インフォメーションギャップバスター」で活動してきた著者。この団体は聴覚障害者向けの電話リレーサービスや東京オリンピック開閉会式におけるテレビ放送の手話通訳の導入を実現させてきた。300人に1人の聴覚障害者…

もっと童話要素の強いまま突っ走ってくれればよかったのに―三方行成『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』

あらすじ・概要 遠い未来、人間が人格をデジタル世界にコピーしたり複製したりが可能になった。「トランスヒューマン」と呼ばれるようになった人類は電脳世界と現実世界の両方で新しい人生を謳歌する。そんな中に、姫君や翁がいて……SF世界で童話パロディをす…

古代日本の世界で少数民族の少女と大王の血を引く男が出会う―円堂豆子『雲神様の箱』

あらすじ・概要 双子の姉の罪をかぶって土雲の一族を追い出され、雄日子という男に仕えることになったセイレン。セイレンは固定観念に囚われない雄日子の人格に惹かれていく。一方で、大王の政治に不満を持った人々によって、政治の世界は不穏さを増していた…

清少納言から中宮定子への熱烈な主従愛―冲方丁『はなとゆめ』

あらすじ・概要 宮中に出仕することになった清少納言は、そこで中宮定子の聡明さ、優雅さに惹かれる。中宮定子や貴人たちとの交流に、頭のいい清少納言は機転を利かせて雅に答え、それを評価される。しかし次第に、藤原道長の権力が、中宮定子にまつわる人々…

「わたし」が小さくなって大冒険―田中ロミオ『人類は衰退しました2』

あらすじ・概要 妖精さんが作った計量スプーンを手に入れた「わたし」。それを頭につっこむと、みるみるうちに体が小さくなった。「わたし」は小さいまま外の世界で大冒険をする。「わたし」と「助手さん」の出会いを描くタイムスリップストーリー含む二編を…

男性の視点から男性の暴力を阻止するためにできること―多賀太・伊藤公雄・安藤哲也『男性の非暴力宣言 ホワイトリボン・キャンペーン』

あらすじ・概要 性的暴行、DV、セクハラなど、女性はさまざまな暴力にさらされている。しかしそれに異議を唱えるのは、同じ女性ばかりだった。ホワイトリボン・キャンペーンは男性が当事者として男性の暴力に反対し、女性や子どもへの暴力をなくそうと活動す…

介護職はなぜ不足しているのかと、日本の介護のこれから―結城康博『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』

あらすじ・概要 少子高齢化によって、介護需要は高まる一方なのに、介護の仕事をする若者は増えない。労働条件の悪さや、介護施設内での暴力、介護施設でのパワハラ・セクハラ、外国人介護職への支援の乏しさなど、現状の問題を語る。介護から見えてくる、高…

障害者の大量殺人事件から優生思想に警鐘を鳴らす―保坂展人『相模原事件とヘイトクライム』

あらすじ・概要 障害者施設で19人が殺害された相模原障害者施設殺傷事件。その事件は多くの障害者とその家族、支援者らに衝撃を与えた。著者は障害のある人の意見を聞いたり、過去の優生思想が起こした事件を語ったりして、優生思想の罠に囚われないよう警鐘…

人類が衰退した世界でのほのぼのブラックSF―田中ロミオ『人類は衰退しました』

あらすじ・概要 人類最後の最高学府を卒業し、故郷に戻ってきた「わたし」。そこで調停官という仕事に就くが、実質お飾りの役職らしい。調停官の「わたし」は今地球を支配する新人類、「妖精さん」にコンタクトを取り、交流していくが……。

実際に培養肉を研究する学者が語る培養肉の将来性と課題―竹内昌治・日比野愛子『培養肉とは何か?』

あらすじ・概要 畜産による環境汚染や、動物福祉の問題から注目され始めた培養肉。日本国内で培養肉の研究を行っている著者が、研究の進捗状況とこれからの課題、さらには培養肉を研究するメリットを語る。「動物を殺さない肉」が描き出す、未来の社会とは………

日本の法律やシステムのせいで困難に立たされた外国人たち―安田菜津紀『隣人のあなた 「移民社会」日本でいま起きていること』

あらすじ・概要 日本に逃れてきた難民、働きにやってきた技能実習生など、日本には様々な外国人や外国にルーツを持つ人々がいる。しかし一部の人たちは日本の法律やシステムのせいで、苦境に立たされている。困難に巻き込まれた日本に住む外国人たちを紹介し…

採集や狩猟をして暮らし、のちに迫害された北海道の先住民たち―時空旅人編集部『今こそ知りたいアイヌ 北の大地に生きる人の歴史と文化』

あらすじ・概要 かつて東北から北海道、樺太や千島列島にかけて暮らしていた民族、アイヌ。北の大地で、狩猟と採集の生活をしていた人々とは……。その宗教観や、食べ物や着るものなどの文化、そして日本との歴史を一冊にまとめた本。 日本に似ているようでが…

自分の価値観を否定する痛みを乗り越えて真実を知る―立岩陽一郎・楊井人文『ファクトチェックとは何か』

あらすじ・概要 フェイクニュースが話題になる昨今、ニュースや政治家の発言の真偽をチェックする「ファクトチェック」が注目されている。人々が正しい情報にアクセスするには、過去の発言や出典をチェックするファクトチェッカーの存在が必要である。海外の…

障害児向けのおもちゃ制作に携わった著者が誰もが使いやすい道具について語る―星川安之『アクセシブルデザインの発想 不便さから生まれる「便利製品」』

あらすじ・概要 障害のある子どものためのおもちゃを作っていた著者は、その流れでみんなが使える商品、アクセシブルデザインに携わることになる。少しの工夫で使える人が増える、アクセシブルデザインの中身とは……。 「できるだけ多くの人が使える道具」を…

東京の「女性の貧困」を追う上で見えてきたもの―中村淳彦『東京貧困女子。 彼女たちはなぜ躓いたのか』

あらすじ・概要 かつてアダルトビデオや風俗のライターをしていた著者は、女性編集者と組んで東京に住む人々の貧困を取材する。風俗で働く女子大生、生活がままならないシングルマザー、障害年金で暮らす障害者など、困窮する女性たちは今何を語るのか。 正…

社会に氾濫する居場所のない人を排除するオブジェ―五十嵐太郎『誰のための排除アート? 不寛容と自己責任論』

あらすじ・概要 ベンチに寝そべられなくする、開いている土地にホームレスが段ボールハウスを作れなくする、若者がたまらないようオブジェを置くなど、「邪魔者」を排除する排除アート。それらはどのように設置され、社会にどのような影響を与えているのか。…

マジョリティの人間が「小さな差別」を軽く考えるのはどうかと思う―鈴木大介『ネット右翼になった父』

あらすじ・概要 父を亡くした著者は、ネット右翼的な思想に傾倒した父について記事に書く。しかしその後、自分は父のことを本当に知っているのかと疑問を持った。家族に聞き取りを行い、父の過去を紐解くにつれて、父親の本当の姿が見えてきた。

最近読んだ本・漫画・ゲームの感想(20230303)

記事を立てるほどではない感想のまとめです。 斉藤環・内田良『いじめ加害者にどう対応するか 処罰と被害者優先のケア』 最上うみみ『お酒で壊れた人が集まる場所で』 木﨑ちあき『博多豚骨ラーメンズ』 岬鷺宮『日和ちゃんのお願いは絶対』 井上純一『月と…

大阪を舞台に営まれる男女の愛と葛藤―田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』

あらすじ・概要 車いすで暮らすジョゼは、同棲し自分を世話する恒夫を「管理人」と呼ぶ。奔放でわがままで、でもどこか憶病なジョゼは恒夫とさまざまなところへ行く。ふたりの微妙な関係はどうなるのか……。表題作ほか、大阪の男女の営みを描く短編集。

自称HSPの人を狙うエセ科学や詐欺、カルト団体に警鐘を鳴らす―飯村周平『HSPブームの功罪を問う』

あらすじ・概要 一般的な人よりも敏感な人たちを指す、「High Sensitive Person」略してHSP。HSPという言葉で救われた人もいる一方で、発達障害の人への蔑視や、HSPを巡る怪しげなビジネスなど、よくない傾向も見られる。日本におけるHSP研究者である著者が…

九州の炭鉱で働いていた人々が語る、生き延びるための物語―上野英信『地の底の笑い話』

あらすじ・概要 九州の炭鉱では、今では考えられないほど過酷な労働が行われ、多くの男女がそれに従事していた。仕事の合間に語られるのは、幽霊の話、怠け者の話、ケツワリ(脱走)の話。労働者がろくに守られなかった時代、使用者に支配される中で、生き延…

女性を守るための仕事で行われる女性搾取―竹信三恵子・戒能民江・瀬山紀子編『官製ワーキングプアの女性たち あなたを支える人のリアル』

あらすじ・概要 フルタイムで働いても貧しいままの人「ワーキングプア」。人々を支えるはずの行政の現場でも、ワーキングプアを産んでしまう構造があった。その被害者は主に女性である。編者自身の意見や、実際に公務員で働く女性たちの声を取り上げ、官製ワ…

クラスメイトの男子が女の子になってしまった、周囲の葛藤と受容―八目迷『ミモザの告白』

あらすじ・概要 高校生の咲馬は、ある日男の幼馴染の汐(うしお)がセーラー服を着ているのを目撃する。汐はしばらく学校を休んだ後、女子生徒の制服を着て投稿してきた。「これから女の子として生きる」と宣言した汐に、クラスメイトたちは困惑し、心ない言…

魔者と人、血のつながらない存在同士の関係性を描く―田井ノエル『おちこぼれ退魔師の処方箋 常夜と現世の架橋』

あらすじ・概要 鴉との出会いから一年が経った咲楽は、常夜の生活にも順応していた。そんな中、帰宅途中で男性を襲おうとしている旧鼠を見つけた。同じころ、七色鱗という魔者から、自分の珊瑚を探してほしいという依頼を受ける。

小学校の非常勤教師が赴任した学校では必ず事件が起こる―東野圭吾『おれは非情勤』

あらすじ・概要 「おれ」は小学校の非常勤講師。赴任した小学校では、いつも何か事件が起こる。ダイイングメッセージを残して死んだ教師、謎の言葉のメモ、ヒ素の入った水を飲んでしまった生徒。「おれ」はその事件を解決する。

男装の女軍人と優しい貧乏貴族の自給自足生活―江本マシメサ『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』

あらすじ・概要 極寒の地で暮らす貴族、リツハルドは、男装の女軍人ジークリンデに、初対面でプロポーズしてしまう。利害が一致したふたりは、契約結婚をすることに、トナカイとともに暮らす大地で、自給自足の生活をしながら、ふたりは仲を深めていく。

「自分らしく」生きられる社会はなぜこんなにも苦しいのか―宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』

あらすじ・概要 昔より多様性が認められ、自由になったはずなのに、なぜ現代社会は生きづらいのか……。現代の社会学者や過去の哲学者の著作を紐解き、現代社会の「断絶」の解説に挑む。思索することで見えてきた、政治への不信感や虚無感の正体とは。