ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

『てくてく巡礼~秩父札所三十四ヶ所観音霊場&三峯神社~』蛸山めがね 白夜書房 感想

てくてく巡礼~秩父札所三十四ヶ所観音霊場&三峯神社~

 

あらすじ・概要

秘仏が公開されることをきっかけに秩父に興味を持った著者。彼女は秩父の寺院をめぐって巡礼をする。山と山を歩きながら、秩父における信仰や文化に触れていく。巡礼をする中での交流にも心癒されていく。

 

秩父の巡礼文化に触れる

関東のことは詳しくないので、埼玉秩父の巡礼文化について興味深く読みました。

 

巡礼の文化がある土地は、地元の人が巡礼者に親切にすることがあります。ごく普通の旅行ではあまりない距離感です。そこが面白かったです。

巡礼者同士も助け合ったり声をかけ合ったりするのが印象的でした。同じ道を誘い合って一緒に歩いたり、この先の道について教えてくれたり。

巡礼を通して、人間とのコミュニケーションを得るのは面白いです。

四国のお遍路にも似たような文化があるので、遠く離れていても巡礼に対する気持ちは似かよっているのだなあと思いました。

 

昔の人は自然豊かなところには神仏の力があると信じました。山を分け入り、宗教施設をめぐる著者を見ていると、原始的な祈りがあると感じます。

山を歩くことは日本の信仰に強い影響を与えているのだな……と感じました。

 

 

 

 

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『五時間目の戦争』優 角川コミックス・エース 感想

【電子版】五時間目の戦争(1) (角川コミックス・エース)

 

あらすじ・概要

愛媛のとある島で暮らしている中学生たち。ある日彼らは「戦争」に行くことを命じられる。しかし、クラス一の俊足の双海朔と、その幼馴染の安居島都は不適格として出征させられなかった。クラスメイトが大けがしたり死んだりする中で、ふたりは自分の無力さに打ちのめされる。

 

いたいけな子どもの戦争と青春が愛しい

いたいけな子どもが戦争に行くやつ、としてはよくある話なんですが、面白かったです。

絵が抜群に上手く、中学生の心の機微を描くのも上手いです。ストーリー自体はベタですが、ぐいぐい読んでしまう作品でした。

徐々に物資が減っていき、人もいなくなっていく島で、必死に生きていく中学生たちがかわいかったです。

「かわいそうはかわいいい」というとちょっと罪深い趣味ですが、たまに読むと興奮してしまうな……となりました。

 

彼等はどうして戦争をしているのか、というネタ晴らしも、意外性があって面白かったです。

結末はハッピーエンドとは言えませんが、さわやかさもあり、印象的でした。

 

しかし、この手の戦争もののフィクションは、現実で戦争が起こっているとどうしても「かわいそうでかわいい~」と思えないところがあります。そういう意味で、戦争は早く終わってほしいですし、フィクションの中だけのものであってほしいですね。

 

 

 

 

『日本一の「婚活スポット」を拝み倒す! 出雲縁結び散歩』まのとのま 徳間書店 感想

~日本一の「婚活スポット」を拝み倒す! ~ 出雲縁結び散歩 (独女漫画家の体当たりコミックエッセイ)

 

あらすじ・概要

二人組の漫画家であるまのとのまが、今度は出雲に旅行に出かける。縁結びにまつわるパワースポットをめぐり、周囲のグルメや文化に触れる。出雲にある神々の伝説、言い伝えも紹介。盛りだくさんな旅行コミックエッセイ。

 

神秘的と言うより俗っぽいけどそれでいいのかもしれない

文字が多くて読むのが大変ですが、その分ボリュームがあって面白いです。出雲の神社のいろいろなエピソードから、著者ふたりの体験談、神話関連の話など盛りだくさんでした。

 

神社については、神秘的……というより俗っぽい部分も多いです。多分これ最近発生した信仰ではないかな、というのが散見されます。

神社の中でよくわからない行動を取っている人もいますし。

しかし、どれだけ歴史があっても信仰というのは俗っぽい部分を含むものなのかもしれないです。むしろ俗っぽい信仰を受け止めてきたから今まで宗教としてやっていける可能性はあります。

 

興味深かったシーンがひとつあります。神社のまわりにお酒をまくお祈り方法が流行っていましたが、神社によるとそれは禁止されているのです。

来てもらえるのはうれしいでしょうが、一般の人に出どころ不明の信仰が流行って神社の方が困ることもあるんでしょうね。

神社に参拝するときは、きちんとそこのルールに従いましょう。

神社が禁止しているということは、どこでこの言説が広がったんでしょうか……

 

 

 

 

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『泥の女通信』にくまん子 WeComix 感想

泥の女通信 完全版

 

あらすじ・概要

男と女が恋に落ち、そこに面倒な物語が生まれる。妬みや嫉み、不倫や浮気、遊び相手としてキープされていること……。物語に出てくる女性キャラクターは、悩み惑い、それでもこのろくでもない世界で生きていく。

 

面白いけどこんな恋愛したくない

男と女、女と女の面倒くさい関係。こんな恋愛したくねえ~!!

不倫や不特定多数との性交渉、ほぼ付き合っているのになぜか付き合ってない男女、良い未来を感じさせない恋愛……などなど。あの手この手でだめな恋愛が展開されました。

性的なシーンが多いですが、性的に興奮するというよりストーリーを生々しくするタイプのエロさです。性の気持ち悪いところ、不穏なところを露骨に出しています。

性について露悪的な一方、絵柄がデフォルメ強くてリアリティ薄目なのがよかったところです。これをガリガリに現実味のある絵柄で描かれたら笑えなかったと思います。

 

どうしようもない話ばかりでしたが、その中で救いがある終わり方をする作品もありました。つらい話で胸焼けしそうな中では清涼剤でした。

コロナ禍で会えなくなった男女が再会する話には、当時のことを思い出していろいろ考えましたね。このふたりはまだ一緒にいられそうでよかったです。

 

電子書籍だから気づきませんでしたが、結構ページ数が多くて読み終わるのに時間がかかりました。KindleUnlimitedで読むにはお得だったのでそこはよかったです。

 

 

 

 

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『ルックバック』藤本タツキ を読んでこれは創作讃歌じゃないと思った話

ルックバック (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

あ、あまりに主人公が自分本位すぎる……と思いましたが、実のところそれこそが作者の描きたかったところかもしれない、と思いました。

後半完全に自分語りになってしまったので有料に畳んだんですけど、ざっくり有料部分の要約をすると

・主人公より京本に同情してしまうのは私が立場的には京本に近いせい。

・私がそういう売り方をしてないのに私の人生を物語として解釈するのはやめろ、本当にやめろ。

・自分の都合のいい物語を持っている人を求めても幸せにはなれない。

こんな感じです!

 

まず京本が理不尽な理由で殺害されたことを「自分のせいだ」と思う主人公がおかしいです。一瞬そう思うことがあったとしても、冷静に考えるとおかしいはずですよね?

京本は京本が自分の作品を模倣したと妄想した男に殺害されます。この動機自体があまりに理不尽なものであり、誰かが責任を取れるものでありません。

どうしても京アニ事件と比べてしまう作品ですが、京アニ事件で亡くなられた人たちはアニメの道に入らなければよかったのでしょうか? 周囲の人間はクリエイターとしての人生を応援するべきではなかったのでしょうか? そういう話ではないですよね。職業に関係なく、彼らは殺害される理由なんてなかったのです。

 

後半で主人公が京本を連れ出さなかったIfの世界が描かれますが、この世界線でも主人公が京本を救ってしまっており、「京本が主人公と出会わなくても、京本は京本で自分の人生があったはずだ」という視点が欠けています。

 

遡って考えると、主人公は美大へ行くために自分の元を離れる京本のことを理解していません。

いくら一緒に漫画を描いていたとしても、相手の人生を縛ることはできません。そして主人公と京本は若いです。プロを目指すより学生としての知識を積みたいと思ってもおかしくはありません。

主人公は、京本の人生を過度に同一視しており、「京本という才能ある引きこもりを連れ出してあげた自分」という物語に固執しています。だからこそその物語を壊す事態である「京本が自分から離れる」ということを理解できなかったのでしょう。

 

今回京本が死ぬことで、悪い意味で主人公と京本の物語は完成してしまったといえます。主人公の中では京本は自分の人生を彩ってくれる悲劇のヒロインであり、対等な関係の相棒ではなくなりました。

京本は主人公のことを好きだったと思います。しかしふたりで閉ざされた世界で漫画を描き続けることに未来はないとわかっていたのでしょう。そして、主人公が本当は京本のことを対等だと思っていないことも理解していました。

この点、京本のほうが大人だったわけですが、京本は死んでしまったから、主人公は自他境界のはっきりした他人として、京本と再会する術を失いました。

主人公が後悔すべきだったのは、京本を連れ出したことではなく、京本が自分とは違う意見を言ったとき、耳を傾けなかったことでしょう。理不尽に殺されたことはどうにもなりませんが、そこは主人公の努力次第でなんとかなった可能性があります。

 

創作というものを理解してないからこういう描写になったというより、理解した上でこういう描写をしたと解釈する方が自然な気がします。

目の前の人間の人生ですら物語として消費し、他者として他人を尊重する力を失わせる、それがエンターテイメントの業なのです。

京本を引きこもりから救ったのは物語の力でしたが、京本と主人公が対等な人間として付き合う選択肢を永遠に失わせたのも、物語を求める人の業でした。

 

ここまでが感想なので、以下は自分語りです。

 

『ぼおるぺん古事記』こうの史代 平凡社 全3巻 感想

ぼおるぺん古事記 一 天の巻

 

あらすじ・概要

古代より遠い昔、イザナギとイザナミという神様が日本の土地と神々を産み、国を作り出した。日本神話をつづった「古事記」をこうの史代が解釈し、コミカライズした。ボールペンという限られた画材を使った漫画。

 

ボールペンで描かれる幻想的で自由な日本神話の世界にうっとりする

ボールペンのみで描かれた古事記のコミカライズです。一見黒ベタに見えるところもカケアミを繰り返してボールペンで描かれています。

ときおり、作中に出てくる古い歌がカラーボールペンで描かれます。これがとても幻想的で美しいです。印刷で色調調整するの大変なのではないでしょうか。

絵が上手いってすごいことなのだなあ……と改めて感じました。

 

古語のまま描かれているので、読みやすさの点では劣ります。しかしそれを補って余る作品のエネルギーを感じます。こういう作品で古語に触れるのは、むしろいいことなのかもしれません。

漫画の下の方に作者の解説が書かれており、話が全くわからなくなることはありませんでした。

 

古代日本風の世界観なのに、突然洋服を着た神様が出てきたり、スワンボートが出てきたりと雰囲気はごっちゃになっています。

真面目な漫画なのにすっとぼけたギャグも入るところに笑いました。

 

普段古事記について調べると煩雑すぎてカットされるところも、書いてあって面白いです。国産みで次々に神が産まれるところや、神々の家系図が興味深いですね。

一応3巻で一区切りですが、著者は続きが書きたいそうなので、期待してしまいますね。

 

 

 

 

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『コロナ禍妊娠日記』おおがきなこ 幻冬舎単行本 感想

コロナ禍妊娠日記 (幻冬舎単行本)

 

あらすじ・概要

不妊治療を経て、ふたりで暮らすことを決意していた著者夫婦。社会がコロナ禍にさしかかり、疫病の不安の中、妊娠が発覚する。自分のこと、コロナ禍の社会のことを思い悩みながら、出産までたどり着いた奇跡を描く。

 

コロナ禍の妊娠エッセイでコロナ禍のことを思い出す

もうコロナ禍というのが昔のことのように思えて愕然としますが、それも含めて面白かったです。

まだ終わったわけではないんですけどね、コロナ禍。勘違いしそうになります。

 

不妊治療を経て、子どものいない暮らしをしようと決意した後の妊娠。戸惑いながらも、出産を決意します。

相手がどんな反応をするか不安になる描写が心に来ました。

コロナ禍の中で妊娠、出産をする不安。病院でも出産に立ち会ってもらうことができません。当時でしか味わえなかった閉塞感を思い出します。

あっさりとした性格で、でも著者を見守っている伴侶のキャラクターに癒されました。コロナ禍の中でも、こういう人と一緒にいられれば心強いでしょう。

また、著者はコロナ禍の中で自分の人生を振り返っています。

 

最終的にはハッピーエンドになるので、今妊娠や出産で悩んでいる人にとっては逆にしっくり来ないかもしれません。

でも子どもを扱った作品はこうなるよなあと思います。

コロナ禍があってよかったかもしれない、というのも一部の人の神経を逆なでする発言だと思うのですが、それだけ彼女の本心なのだと思いました。

 

 

いとしのギー

いとしのギー

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『少女漫画』松田奈緒子 クイーンズコミックス 感想

少女漫画 (クイーンズコミックスDIGITAL)

 

あらすじ・概要

少女漫画が好きな女性たち。彼女たちが困難に直面するとき、あのころ読んだ少女漫画のことを思い出して……。同時に、売れない少女漫画家は、自分の作品が理解されないことに悩んでいた。実在する少女漫画をテーマに、女性たちの人生を描く連作短編。

 

読んだことのある少女漫画に救われる女性たちに心が温かくなる

『ベルサイユのばら』など読んだことのある少女漫画も多く、懐かしい気持ちになりました。

登場人物たちは、何かしらの困難を抱えていますが、少女漫画が与えてくれた視点で、もう一度現実をとらえ直していきます。

物語を読むことは趣味で、それが直接お金になるわけではありません。それでも人は物語に支えられることがあります。

少女漫画がもたらしてくれるささやかな奇跡に、心が暖かくなりました。

 

読者の視点の一方で、売れない少女漫画家が自分と向き合い、本当に自分が描くべき物語を考える、というストーリーが描かれます。

彼女の漫画を評して、「価値観が違う人への優しさがない」というのにわかるなあ、となりました。

絵が上手くても、構成が優れていても、自分が持つ価値観しか肯定しない物語は面白くないです。

物語を発展させていくには、自分と違う価値観の人のことも考える必要があります。

 

あとから気づきましたが、このブログでも紹介した『スラム団地』の人なんですね。作品の雰囲気違いすぎてわからなかったです。

 

 

 

 

 

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『やわいボンド』菊池真理子 A.L.C.DX 感想

やわいボンド (A.L.C. DX)

 

あらすじ・概要

最近犬を飼い始めた鈴音は、同じく犬を飼っている近所の人と仲良くなる。同時に、鈴音は友人の冴との関係に悩んでいた。意地悪で辛辣なことを言うようになった冴、さらに冴は、少年院を出所した殺人犯と交流を持っているらしく……。鈴音は友情と不信の間で揺れ動く。

 

ゆるやかなつながりが子どもたちを救ってほしい

宗教二世や毒親のインタビュー漫画で有名な著者。フィクションのほうはどうかなあと思っていましたが、面白かったです。

主人公、鈴音は最近友人の冴が変わってしまったことが気になっています。辛辣な物言いを繰り返し、前科持ちらしき人と交流を持とうとします。

鈴音はそんな冴に不快感や不信を覚えながらも、子どもゆえに「もしかしたら冴のほうが正しいのではないか?」と考えます。

少し考えたら、冴の方が様子がおかしいのですが、人生経験の少ない子どもにはそれがわかりません。そこが現実味がありました。

 

話が進むごとに、冴は、複雑な家庭事情で悩んでいることがわかります。

兄を溺愛する一方で、妹の冴につらく当たる母親。そんな母親に反発しつつも、どこか母親に愛されたいという気持ちを捨てられない冴が哀れでした。

家庭環境のいい鈴音と自分を比べてしまう冴に、心が痛みました。

 

タイトルの「やわいボンド」は犬の名前であると同時に、人と人のゆるやかなつながりを示します。

子ども時代に親切な、それでいて多様な価値観を持つ大人に出会うことは大事なのだと思います。

搾取する大人もいるので怖いけれど、それでも日常を生きる子どもたちにゆるやかなつながりを持ってほしいと思いました。

 

 

 

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『運動ざせつ女子が行きついた 1分スロージョギング』たかツキなほり KADOKAWA 感想

運動ざせつ女子が行き着いた 1分スロージョギング (コミックエッセイ)

 

あらすじ・概要

運動が苦手な著者は、スロージョギングという方法に行き着く。歩くぐらいの早さでゆっくり走り、疲れたら休んでもいい。運動が苦手でも、三日坊主でも続けられる、無理をしない運動方法とは。

 

やってみたいと思わせる語り口がよい

スロージョギングについて興味があったので読んでみました。コンパクトにまとまった内容でよかったです。「私もやってみたい」と思える情報量と語り口です。

 

スロージョギングとは、歩くぐらいの早さでゆっくり走ることです。普段着で走ってもいいし、仕事の行き帰りに最寄駅まで走ってもいい。疲れたら歩いてもいい。そんな気楽なジョギングです。

 

運動のハードルを低くしてくれる内容が多く、心が軽くなりました。1分でもいい、コンビニと家を往復するだけでもいいという手軽さが助かります。

運動を挫折してしまうという問題に対して、具体的なアドバイスをしてくれます。パン屋に行く、などジョギングの目的地を決めたり、いつもジョギング用のくつを履いて出かけたり、行動で簡略化できる部分は簡略化していきます。精神論ではなく、自分はこうした、という内容を教えてくれるのがよかったです。

 

 

しかし、屋外でやるスポーツは、夏が大変なのでどうしようかなという問題があります。地下街や巨大イオンはウォーキングにはいいけど、走るのはちょっと……ですし。

夏の間だけスポーツジム契約するしかないですかね?