ブックワームのひとりごと

読書中心に好きなものの話をするブログです。内容の転載はお断りします。

『五時間目の戦争』優 角川コミックス・エース 感想

【電子版】五時間目の戦争(1) (角川コミックス・エース)

 

あらすじ・概要

愛媛のとある島で暮らしている中学生たち。ある日彼らは「戦争」に行くことを命じられる。しかし、クラス一の俊足の双海朔と、その幼馴染の安居島都は不適格として出征させられなかった。クラスメイトが大けがしたり死んだりする中で、ふたりは自分の無力さに打ちのめされる。

 

いたいけな子どもの戦争と青春が愛しい

いたいけな子どもが戦争に行くやつ、としてはよくある話なんですが、面白かったです。

絵が抜群に上手く、中学生の心の機微を描くのも上手いです。ストーリー自体はベタですが、ぐいぐい読んでしまう作品でした。

徐々に物資が減っていき、人もいなくなっていく島で、必死に生きていく中学生たちがかわいかったです。

「かわいそうはかわいいい」というとちょっと罪深い趣味ですが、たまに読むと興奮してしまうな……となりました。

 

彼等はどうして戦争をしているのか、というネタ晴らしも、意外性があって面白かったです。

結末はハッピーエンドとは言えませんが、さわやかさもあり、印象的でした。

 

しかし、この手の戦争もののフィクションは、現実で戦争が起こっているとどうしても「かわいそうでかわいい~」と思えないところがあります。そういう意味で、戦争は早く終わってほしいですし、フィクションの中だけのものであってほしいですね。

 

 

 

 

『SFのSは、ステキのS』池澤春菜 早川書房 感想

SFのSは、ステキのS (早川書房)

あらすじ・概要

SF好きの池澤春菜。彼女が日常にSFを見出したり、SFをテーマにしたゲームをやったり、SF関連のコンテストの審査をやったり……。SFの楽しさを伝えながらも、SFが持つ課題点についても語る。SFを読む楽しさと、フィクションをめぐる問題提起があるエッセイ集。

 

SFの楽しさとSFというコンテンツが抱えている問題点と

序盤はオタクでポジティブな話が多いですが、徐々にマイノリティやジェンダーの問題に言及せざるを得なくなっていく。その過程が面白かったです。

もちろん、著者がSFが大好きなのは一貫して変わりません。世界のいろいろなものにSFを見出して、考えもします。

 

著者の素晴らしいところは、SFというジャンルが抱える問題点について、ファンや読者についてきちんと話す用意があるということです。

SFというジャンルで長年女性が侮られていたことや、現代のモラルやジェンダー観に取り組もうとする作品の軽視など、SFが抱える問題は多いです。

そこをないものとして扱うのではなく、話題として取り上げた上でなおSFというものは素晴らしいジャンルなんだ、と説きます。

 

私も、SFというジャンルは好きですが、SF好きの界隈には自浄作用が働いていないのは事実だと思います。ときどき失礼な発言をするのは「そういう人間もたまにはいるだろうな」と思うのでまだいいです。問題は、そういう発言をした人を安易に擁護することですね。

言ったことの責任を引き受けるのは当然のこと、言葉を使った商売をするならなおさらです。

SFというジャンルがこれから発展していくにしても風通しのいい、自由な議論がなされる場所であってほしいです。

 

 

 

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『蒼穹のカルマ』橘公司 富士見ファンタジア文庫 全8巻 感想

蒼穹のカルマ1 (富士見ファンタジア文庫)

 

あらすじ・概要

空飛ぶモンスター空獣を狩る駆真(かるま)は、姪にはデロデロになるほど甘い。駆真が愛する在紗を巡って、異世界を冒険したり学園に潜入したり、ドタバタ劇を繰り広げるトンチキコメディ。

 

愛が重いけど愛が深い百合SF

姪にはポンコツになる最強系ヒロイン。ポンコツっぷりがすごいですが、格が下がらないのがまたすごいです。思考回路はおかしいけど社会人としては有能で、ちゃんと仕事しているんですよね……。

部下の能力を適切に理解したり、アドバイスしたりするので、ただ性格のおかしい女性ではありません。主人公として納得のいく活躍をしています。

 

世界観は学園ものになったり、異世界勇者と魔王のファンタジーになったり、揺れ動きます。

めちゃくちゃな展開ですが、一応ストーリーのつじつまは合っているところがすごいですね。ネタ系ばかりの展開でつじつま合うことあるんですね……。

 

あとは「おそらく恋愛関係にはならないけど、お互いのことを『わかってる』男女」が浴びれたのがよかったですね。テーマ自体が女と女の関係性なので、恋愛関係にならないということが確定しています。

三谷原

在紗に惚れた異世界の魔王(男性)も駆真と共闘してくれて、突発的に発生するバディ要素が好きでした。

思えば、分の好きな人にはいろいろな人に好かれて幸せになってほしい、と思えるのは素敵ですね。

 

ロリコン的描写が強いので、フィクションであっても未成年が性的に描かれる作品が苦手な人はやめておいた方がいいかもしれません。

 

 

 

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ジョジョの奇妙な冒険のアニメを見た感想 ダイヤモンドは砕けない/黄金の風

黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)

『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメを見た記録、ダイヤモンドは砕けない&黄金の風編です。

前回の記事はこちら。

 

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ストーンオーシャンも見ようかと思っていたのですが、まだアニメで完結までやっていないようなので、五部までにしました。

 

 

第四部 ダイヤモンドは砕けない

漫画家のうちへ遊びに行こう その2

東方仗助のもとに、年上の甥を名乗る男が現れる。彼の名は空条承太郎。祖父であるジョセフ・ジョースターの不貞による息子に会いに来たという。

孫が祖父の隠し子に会うところから始まる物語。ジョセフはもうちょっと自分のやったことに責任を持ってほしいです。

浮気、ジョナサンや承太郎はやらないと思うんですが、「ジョセフならギリやるかも……」という気持ちになるのが困ります。あいつチャラいし。

日常をベースにした部です。学校のクラスメイトや、近所の人がスタンド能力を持ち、仗助たちに襲いかかってきます。普通の生活と危険なバトルが境界線なくつながるところが面白いです。

ギャグ回では、仗助が金銭問題でモメる回に笑いました。仗助も度胸や勇気はあるんですが、16歳の子どもなんだなあと思います。ハーヴェストの能力もいいですね。

関係性では、由花子と康一のラブロマンスがよかったです。康一に強い恋心を抱く由花子が、康一の心に触れ、真実の愛を知るところが美しかったです。

主人公の仗助含め、4部には性格に難のあるキャラクターが多かったです。しかし、そういうキャラクターが愛や正義のために戦うのがかっこよかったです。

場面によってキャラクターの色が変わるので、これは色を固定しているよりよほど手間がかるのではないかと見ていました。

 

第五部 黄金の風

ギャング入門

ギャング・スターに憧れるジョルノ・ジョバーナは、ギャングの世界に入り、ブチャラティのチームに所属する。ブチャラティを幹部にするために協力するうち、チームはある女の子の護衛を任される。

今までジョジョは「血縁」「家族」を重要視してきましたが、「父親に殺されかけた女の子」を「地の繋がらない男たち」が助けるのがよかったです。

ジョジョは、あまりに血縁を肯定的に描いてきたので、家族にあまりいい思い出がない人にとってはつらいのではないかと思っていました。

親に愛されて育ったブチャラティが、父親に殺されかかっている女の子のためにすべてを投げ出してでも怒るところは泣けました。

守られる側であるトリッシュも、流されるだけではなく、自らの意思で未来を選択していくようになります。その姿に熱くなりました。

とはいえスタンド戦が以前より複雑になったため、家事の合間に流し見しているだけではよくわからない部分も増えました。勝ち負けがわかっていればストーリー自体は追えます。

漫画を読むとまた違った反応になるのかもしれません。

 

余談 ジョジョのネットミームについて知れた

これはアニメ関係ない余談なのですが、ジョジョを見たおかげでネットミームを理解することができたのが面白かったですね。ストーリーとは全く違う方向でネットミームになってしまったものも多いです。元々作品が好きな人は嫌かもしれません。

それでも周囲のネットミームについて解像度が上がったのは面白かったです。

「自分つっこみクマ」や「ちいかわ」のナガノさんが「本屋に並んでいる顔が『知っている』顔になる」と言う話をしていましたが、かの快感に近いです。

 

 

 

祝・大二審終了! ミルグラムのおすすめMVの感想とミルグラムに期待すること



ミルグラムの第二審、囚人全員の動画が出そろいました。よかった!

作品の雰囲気としては祝っている場合ではないんですが、こういう尖った作品が打ち切りにならずに進行しているだけでもめでたいです。

せっかくなので感想のまとめを書きたいと思います。

 

ミルグラムとは何か?

直接的・間接的に人を殺してしまった10人の囚人キャラクターに、視聴者が「赦す」「赦さない」の票を投じる悪趣味音楽企画です。

ミルグラムの音楽は囚人たちの過去や心象世界を示したものであり、MVにはさながら宗教絵のように細かい意味が込められています。

とはいえ悪趣味なだけではなく、キャラクターはマイノリティ属性ゆえに相手を追い詰めてしまったり、直接手を下したわけではなかったり、そこに自由意志が存在したかは微妙だったりします。

キャラクターの罪を追っているうちに、視聴者は自分自身の内面のモラルとも向き合わざるをえなくなります。

 

第二審おすすめの動画

ここからは第二審でおすすめ・興味深かったの動画を紹介します。本当は全曲紹介したいところですが、まだ考えがまとまっていないキャラもいるので3人だけ。

ムウ「悪くないもん」


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「私いじめられっ子なの」みたいな音楽から一転、「やっぱほら私の勝ち」で勝利宣言から始まるMV。

ムウはいじめっ子でしたが、ある時からいじめられる側に転落します。その原因はムウのMVに出てくる女の子が作ったようです。視聴者からは「外ハネちゃん」と呼ばれているのでこの記事でもその呼び方を踏襲します。

ムウのMVでは他のキャラクターが全員蟻の姿をしていますが、外ハネちゃんは人間の姿のまま。そして外ハネちゃんはムウの行為にはっきり嫌悪感を示します。

ムウがなぜ外ハネちゃんに殺害するほどの憎悪を抱いたのか、まだよくわかりません。いじめられる原因になったから恨むのはわかりますが、殺害しても仕方がないとは言えません。

そして、第一審の曲での「あなたが好きよ」という歌詞を踏まえると、ムウが外ハネちゃんに憎悪以外の執着を持っていたのではないかと私は思います。

もしかしたら告白して振られた上に今までの悪行をばらされたんじゃないかな……悪行についてはムウが完全に悪いから擁護できませんが。

「立場がひっくり返る」ことの象徴として砂時計が出てきます。

このままムウがやべえいじめっ子だと赦さない一択なので、もう一段階くらい大変な事実が判明しそうです。

 

アマネ「粛清マーチ」


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ミルグラムはだいたい倫理がない展開ばかりですが、アマネの事情は特に視聴者の倫理観を揺さぶってきます。

アマネはカルト宗教を信じる両親から洗脳を受け、その洗脳から「信仰に背いた親」を殺害してしまいます。殺害に至った理由と、殺害したのが父親か母親かは、今のところ意図的に伏せられているようです。

洗脳によって神罰モンスターになってしまったアマネですが、「あなたに言ったごめんなさい 覚えてますか」と詰問するような歌詞で終わるのがやりきれないです。「あなた」とは自分に体罰を振るった親のことでしょう。

ややこしいのは、アマネの両親はアマネが「(両親に)愛されていました」と答える程度にはアマネを愛していたところです。両親もカルト宗教の洗脳の被害者と言えます。

単純に子どもだからだけではなく、「信仰の自由はどこまで認められるべきか?」「洗脳されて行った犯罪について人はどこまで責任を負えるのか?」「虐待された子どもが親を殺すのは罪なのか?」という多重的な問題も突き付けてきます。

 

カズイ「cat」


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カズイは、自分に惚れている女性に恋愛感情がないのに結婚してしまい、しばらく理想の夫として振る舞ったあと、妻に「本当は愛していなかった」と告げてしまいます。ショックを受けた妻は自死を選んでしまったようです。

なぜカズイは愛のない結婚をしたのか?「カズイの恋の象徴として現れる青いりんご」「カズイは男らしく育ってほほしいという父に育てられた」「禁断の愛のように扱われるカズイの恋」ということを考えると、カズイは同性愛者だったが、世間体を気にして結婚をした、という可能性が出てきます。

しかもカズイは見た目とは裏腹に周囲の目や親からの期待をとても敏感に受け止めてしまうキャラクターです。親の期待に応えたい……という理由から嘘が始まったのはやりきれないです。

性的指向は罪ではないので赦すけど、個人的に妻は何も悪くないので妻には謝ってほしいです。妻がブチキレてカズイを罵ってくれればよかったのにね……。

 

まとめ:ミルグラムに今後期待すること

以上、第二審で印象的だったMVをまとめました。

ミルグラムはとても面白いシリーズですが、好きかどうかと言われるとまだ微妙なところではあります。宗教二世の問題、同性愛の問題、精神疾患や家庭環境の問題と、社会のややこしい問題を扱っているからです。ミルグラムという作品が出した結論によっては、この作品を嫌いになってしまうこともあるかもしれません。

こうして視聴者の倫理観をゆさぶり、この社会には自分とわかりあえない人間がたくさんいると突き付けるのであれば、原作の出した答えはきちんと視聴者の想像を超えるものであってほしいです。

 

↓ちなみに小説版は設定を踏襲しているだけの別物らしいです。

 

わかり合えないことの向こう側へ行く作品であることを望みます。

いろいろ言いましたが、どこから見ても大丈夫なシリーズだと思うので、まずは気になった動画を見てみてください。

『パウ・パトロール・ザ・ムービー』カル・ブランカ― 感想

パウ・パトロール ザ・ムービー (吹替版)

 

あらすじ・概要

子犬たちのパトロール隊、パウ・パトロール。災害や事故に関する救助活動を行っている。近隣のアドベンチャー・シティにライバール市長が就任し、勝手な思い付きで町をめちゃくちゃにしてしまう。パウ・パトロールたちは市長の起こした事故に対処する。

 

「こういう属性はいじっていい」という価値観がつらい

フィクションにおける悪役の描きかたについて考えてしまう作品でしたね。

悪役であるライバール市長は、金髪碧眼のおじさん、政治家という設定。

その設定と描き方に「ああ……脚本家はこういう属性の人をばかにしていいと思っているんだな……」と思ってつらかったです。

確かに現実では金髪碧眼の政治家おじさんが他人を搾取していることは存在するでしょうが、そのことを雑にいじって、ギャグにすることは長期的にはいい影響をもたらさない気がします。

自分の側に正義があれば、ステレオタイプに他人をいじってもいいというのはきついですよ。

 

それでもつまらないわけではなくて、メカの変形やかわいい犬のやりとりは楽しめました。日本の戦隊ものを思わせるデザインとギミックは楽しかったです。

 

面白いとは思いますが、ステレオタイプな表象についてはいただけない部分もあるという感じでした。

 

 

『世界の終わりのオタクたち』羽流木はない ビームコミックス 感想

世界の終わりのオタクたち (ビームコミックス)

 

あらすじ・概要

年下のオタクに執着しているオタクや、同人誌を薪にできないオタク。終末世界に暮らしているオタクは、作品について何を思うのか。ハードな状況の中で、なお創作を、コンテンツを愛するオタクたちの連作短編。

 

浅ましくも魅力的なオタクたちの連作短編

Twitterで流れてきた漫画、書籍化していたのかと気づいて読んでみました。書籍化してもちゃんと面白かったです。

 

印象的だったのは、女体化二次創作を好む女性の回です。好きなキャラクターが女体化するところを夢想しながら、「どうして原作で男性のキャラクターを女体化してしまうのか?」と疑問に思います。

周囲が彼女のことを否定するわけではなく、彼女自身がぐるぐる悩んで考えているところが斬新でしたね。

 

彼女らの行動は、美しくはなく、浅ましいです。

しかし、この世界で、困難を抱えて生きていく上で、「何かにのめり込むこと」が人を救うことがあります。終末というのはひとつの比喩で、私たちオタクは常にこのろくでもない世界でフィクションを支えに生きているのかもしれない。そしてその状況は『世界の終わりのオタクたち』に出てくるオタクと変わらないのかもしれないと思いました。

 

Twitterで発表されたからこそ共感を呼んだのでしょう。これが商業前提に描かれていたら、違った物語になってしまった気がします。こういう作品こそインターネットから書籍化してほしいと思います。

 

 

人外キャラクターが魅力的な漫画おすすめ20選 ファンタジー、SFから


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今回は、人外キャラクターが魅力的な漫画のおすすめを書きました。

人外の定義はいろいろですが、この記事ではかなりゆるめの定義をしています。

 

 

 

ファンタジー

『社畜OLと悪魔ショタ』白野アキヒロ

社畜OLと悪魔ショタ (コミックエッセイ)

ブラック企業に勤めるOLは、思い詰めるあまり悪魔を召喚してしまった。しかし現れたのは年若い少年の姿の悪魔だった。悪魔ながら優しく親切で、自分のことを大事にしてくれる彼に、OLは癒されていく。

漫画は基本はモノクロで描かれているのですが、悪魔がかわいいことを言ったり優しい言葉を言う決めゴマのみ、カラーで着彩されています。

紙の書籍でも演出は再現されているんですかね。

ここぞというときに悪魔の顔のアップと、カラーイラストによる繊細な表情の描写が出てくるので、どきっとしてしまいました。

絵柄もかわいいし、細かいところがフェチに溢れていてぐっと来るんですよね。

コマ割りやせりふ回しもとても読みやすく、漫画を描き慣れている人の作品だと思います。

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『トルソの僕ら』墨佳遼

トルソの僕ら 上 (クロフネコミックス)

彼氏に裏切られたハンナは、アマゾンの奥地で鳥に似た不思議な生き物と出会う。うっかりその種族の求愛行動をしてしまったハンナは、その鳥、ナプタムに惚れられてしまうのだが……。人魚、人造人間、手足のない種族など、人と人でないものの関係を描く短編集。

総合的な評価としては「人間と人外が好きな人にはおすすめ!」という感じです。「人でないもの」を描く画力が素晴らしいです。鳥人間のふわふわ感、トルソの戦士の硬質さ、花のたおやかさ、などなど。絵で魅せる方法がわかっています。

ストーリーもその美しい絵に合っていてよかったです。

優しい話も、終わり方にぎょっとする話もあり、どれも面白い短編集でした。

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『大きい犬』スケラッコ

大きい犬 (トーチコミックス)

近所に巨大な犬がいる。穏やかで、優しい大きな犬と主人公は仲良くなっていく。しかしある日、犬はどこかへ消えてしまって……。表題作ほか、ありふれた日常の中に起こる不思議や他人との関係を描いた短編集。

日常の中に突然大きな犬が現れ、その犬と仲良くなっていく主人公の姿が、不思議でほのぼのとしていて面白かったです。

犬が消えてショックを受けるところもユーモラスで、少し切なかったです。

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『午後五時四十六分 野干ツヅラ作品集』

午後五時四十六分 野干ツヅラ短編集 (MFC ジーンピクシブシリーズ)

こっくりさん、透明人間、信号機……。愛を覚えるのは人間だけではない。人外と女子高生の恋と交流を描く短編集。

延々と人外×女子高生の恋模様が描かれる短編集なんですが、発想力が面白いです。

蛇のおもちゃの頭をした神様だとか、目の穴に花が咲く人外だとか、アイデアを眺めているだけで楽しいです。

人外ものは、想像力の羽を伸ばして、「こういうのいいじゃん」というものを描けるのが楽しいですね。

個人的に好きなのは、「あわい、くちなわ、たけこうべ」です。竹のおもちゃの頭の神様というだけで面白すぎるし、そうなった経緯もしっかり描かれていてよかったです。

ちょっとホラー風味な展開も、怖い話好きとしては嬉しかったです。おどろおどろしいけれど怖すぎない、その塩梅が良かったです。

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『夜は短し歩けよ乙女』原作:森見登美彦 作画:音らんまる

夜は短し歩けよ乙女 新装版 上 (MFコミックス アライブシリーズ)

冴えない京都の大学生である「私」は、サークルの後輩である乙女に恋をする。何とか彼女の目に留まろうと努力するのだが、その努力がずれているためなかなか実を結ばない。京都は、天狗や古本の神様が住まい、止まない大雨や謎の風邪が発生する不思議な場所だった。

世界観は現代の京都を下敷きにしていますが、特に読者に説明もなくどんどん不思議なことが起こります。トンチキだけれど「京都」という舞台に助けられているところはあります。あれだけ歴史と文化のある町なら不思議なことが起こっても変ではないな、と思ってしまいます。

古本市や大学の文化祭にある非日常性に不思議現象が絡んで独特の空気を醸し出していました。

古本まつりに出現する神様や、えたいのしれない青年など、人ならざる者も跋扈する京都の話でした。

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『綿の国星』大島弓子

綿の国星 1 (白泉社文庫)

とある家庭に拾われたチビ猫は、自分も大きくなったら人間になるのだと信じていた。しかし猫は人間にはなれないと教えられ、ショックを受ける。野良猫飼い猫、純潔種や雑種など、猫と人間たちの関係を擬人化したキャラクターで語るシリーズ。

昔の作品なのもあって、作中における猫の扱いは雑です。子猫を外飼いしたり、ねこまんまや残飯を食べさせたり。この作品の真似をして猫を飼ったらだめですね。この辺りのシーンはぎょっとしました。うちの猫は完全室内飼いでしたので。

母猫がストレスで子猫を食べてしまう話題の回もちょっと怖かったです。

割り切って読む分には面白いです。猫への価値観の古さも、世界観の一部として受け止めることができました。

飼い猫や野良猫と人間の関係、猫同士の関係がユーモラスに美しく描かれている漫画でした。

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『鹿娘清美婚姻譚』緒方波子

鹿娘清美婚姻譚 (HARTA COMIX)

奈良に住む鹿の娘、清美はお金目当てで和菓子屋の息子、善彦とお見合いする。財政難で鹿を世話する鹿の会が困窮しているからだったが、反人間派である兄に猛反対に遭い……。果たして二人は無事に祝言を上げることができるのか。

世界観や話の展開には若干のツッコミどころがある(もっと長い連載を想定していたのかもしれない)んですが、それもあまり気にならないくらいのユーモアがありました。

異類婚のきっかけがお金目当てというのがまず面白いし、縁談が進んでもひたすらマイペースな鹿たちが笑えます。反人間派の兄のグループもなんとなく間が抜けていて憎めません。

ファンタジー系ラブストーリーなのに妙に現実的で、でも鹿と結婚するので見た目はファンシーで、そのギャップを笑いながら見ていました。

「完璧な作品ではないけれど、私は好き」と言いたくなる作品でした。好きな人は好きだと思います。

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『アンテン様の腹の中』夜諏河樹 

アンテン様の腹の中 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

悩む人の目の前に、突然現れる謎の神社。そこにはアンテン様という神様がおり、思いのこもった大切なものを捧げる代わりに願いを叶えてくれるという。アンテン様の神社にたどり着いた人々と、その願いの顛末を語る連作短編。

願いを叶える神様と、それに人生を狂わされる人間たち。ネタとしては先行作品がたくさんありますが、連作短編としてきれいにまとまっていました。

過ぎた欲を持って身を滅ぼす人々だけではなく、適度に願いを叶えて幸せになる人も、逆に何も願わずに自力で生きていく人も描かれています。願いに善も悪もなく、それを活かして人生を豊かにできるかはその人次第ということでしょう。

個人的に好きな回は人形師の男の回です。「愛されたい」と強く願いながら、愛が得られず、何度も伴侶を殺害してしまいます。おぞましさと同時に哀れさも感じました。

最後に彼に引導を渡した人間の、言い放った言葉は印象的でした。何も願わず、生きていけるのであれば、それも幸せかもしれません。

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『お姉さんの食卓』浅岡キョウジ

お姉さんの食卓【分冊版】(1) (RYU COMICS)

春休み叔父の家にやってきた孝太郎は、そこでセーラー服の美少女、静に出会う。彼女が不思議なキセルを吹くと、孝太郎はクモになり、静を食べてしまった。これは幻覚なのか、それとも……。静は孝太郎につきまとうようになり、孝太郎に何度も不思議な光景を見せる。

癖がすごい。おねショタの組み合わせ自体は普通ですが、「虫になって美しいお姉さんを食う」というシチュエーションを見たのは初めてです。しかも読んでいるうちにこういう描写もありかな……と思えてきてびっくりしました。

何がなんだかよくわからないし、裸が出てくるわけではないのにセクシーで驚きました。

ヒロインであり怪異ものとしての敵でもある静の怪しげな美しさに惹かれながらも、その能力に同時に恐怖する孝太郎。その怪しい、怖いの間で揺れる感覚が生々しく、なまめかしくもありました。怖いと美しいは近いところにあるんだなあ……。

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『魔女ヶ丘通信』唐草ミチル

魔女ヶ丘通信 (主任がゆく!スペシャル)

人間の村で暮らしていた魔女、マノンは人間と魔女が共存する街ウェネリーフィカにやってきた。初めて見る自分以外の魔女との交流にカルチャーショックを受けつつ、マノンはウェネリーフィカで生きていく術を見つける。それは、お菓子を作って売ることだった。

「魔女」と「人間」の二種類の種族がいる社会で、魔女は魔法が使え、人間より体が強く、寿命も長いです。

魔法が使えて身体が強い分魔女は大雑把で適当で、繊細な能力に欠けます。そんな魔女の欠点を、人間社会育ちの魔女である主人公マノンがコミュニケーション能力や器用さで補っていくというストーリーです。

 

基本的に前向きで、童話的で牧歌的な世界観ですが、主人公マノンの相棒に意外な過去があったり、意地悪で嫌なキャラクターにひょんなことから助けられたり、何気ない魔女たちの多面性が面白かったです。

優しい世界だけれど甘やかしすぎないような世界観・人間観が好きです。

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『ばけむこ』枝屋初

ばけむこ 1巻 (ブレイドコミックス)

一族の女に伝わる早死にの呪いによって、男として育てられた少女葬太郎。彼女(彼?)はなめくじの神にさらわれ、結婚相手とされてしまう。居場所がないと思っていた葬太郎は、それを受け入れ夫婦になるが……。

だいたい物語の結末はいろいろなことがはっきりして決着がつくものなんですが、この漫画は最後になればなるほどあやふやにガバガバになっていく話でした。男と女、人と人でないもの、夫と妻、夢と現。でもその「境界線? なくていいんじゃない?」という方向性がどこまでも潔かったです。

最終的に銀書姫と葬太郎は自我までまぜこぜにしてしまった感じがします。

『ばけむこ』を読んでいると、あれこれ定義をしたがる自分自身のほうが間違っている気がしてきます。世界って言うのはゆらゆら動いて不確かなんだ……。

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『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』きゆづきさとこ

棺担ぎのクロ。~懐中旅話~ 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

大きな棺を背中に担いで、街から街へ、国から国へ旅を続けるクロ。コウモリのセン、人造人間のニジュクとサンジュとともに、自身に呪いをかけた魔女の行方を探していた。クロにかけたれた呪いの秘密とは……。

連作短編のそれぞれのストーリーとしても、常に死の影が付きまとっています。生粋の悪人はめったに出てこない、絵本のような世界観なのに、ゲストキャラクターたちは何か悲しい思いを抱えています。牧歌的な世界観の中にちりばめられているふとした闇こそが、この作品をダークファンタジーに分類させているのだと思います。

人口生命体のニジュクとサンジュ、コウモリのセンなど、人ならざるキャラクターが多く登場します。

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SF

 

『アイとアイザワ』作画うめ・原作かっぴー

アイとアイザワ(1)

見たものをすべて記憶する能力を持つ「カメラアイ」を持つアイ。その類まれなる「目」を買われ、ある実験に参加することになる。それは、AIと対話することだった。そのAI「アイザワ」に恋をしたアイは、戦争から世界を救うための戦いに巻き込まれていくこととなる。

人工知能アイザワに恋をしたアイが、世界の命運をかけた戦いに巻き込まれていく過程ははらはらしました。そして戦争が起こる理由、黒幕は誰なのか……という秘密が明かされ、事態はどんどん壮大になっていきます。

オチ自体はすごく珍しいものではないですが、ここまでの作品のテーマやアイとアイザワの関係を踏まえるとこういう終わり方もありだと思いました。一貫して物語のための物語だったんですね。

人外と人間の恋愛ものとしても面白かったです。

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『ブレーメンⅡ』川原泉

ブレーメンII 1 (白泉社文庫)

宇宙船ブレーメンⅡの船長に抜擢された主人公は、そこで知性ある動物たちと働くことになる。初めてのことに戸惑いながらも、主人公は動物たちと困難を乗り越えていく。旅の終わりに、出会った1匹の黒猫とは……。

マジョリティ側である主人公が、マイノリティであるブレーメンのために戦い、行動するところがよかったです

虐げられたもののために、みんなが立ち上がるシーンは何だか泣けてきます。本当にこういう世界であればと思いました。

テンポがいいのでサクサク読め、それぞれの話がポジティブな形で終わるので、疲れているときに染みる話です。

とはいえ黒ヤギと白ヤギの話は悲しいですが、それでも希望のある終わり方でした。

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『22XX』清水玲子

22XX (白泉社文庫)

ある星に賞金稼ぎにやってきたロボットのジャック。そこで出会ったのは、人食い種族の少女だった。求婚されたという勘違いから、彼女はジャックの子どもをつくろうとする。しかしジャックはロボット。どうあがいても子どもはできないのだが……。

食べることに嫌悪感と罪悪感を持つジャックを見ているとこっちまでつらかったです。そんなジャックが、食べることで相手の生を取り込み引き受けていくルビィにあこがれというか、うらやましさというか、淡い恋のような感情を抱いていくのがよかったです。

ジャックが食欲を持つロボットでなければ、この関係は結ばれなかったと思います。結局のところジャックは父親にもなれないし食料にもなれない。だからこそ、ルビィがうらやましかったんだと思います。

しかしジャックは賞金稼ぎ。ふたりの生活は、長くは続かない運命でした。

結末は胃が千切れるかと思うくらい切なかったです。

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『果ての星通信』メノタ

果ての星通信1 (PASH! コミックス)

海外に行き恋人にプロポーズするつもりだったロシア人のマルコは、突然全く知らない場所に連れてこられた。マルコは今日から「局員」として、10年間故郷に帰らないまま星を作る仕事をしなければならないという。恋人に再会したいマルコは、どうにか逃げ出すことを考えるが……。

結婚という概念がない種族、クローン技術で増える種族、中世のような文化を保っている種族など、描かれる文化は現実世界よりよほど多様です。

同時に、そんな多様な文化が認められる世界にさえ、世界のセーフティネットから零れ落ちて生きなければいけない人々がいるということも描き出しています。

キャラクターにほとんど悪い人はいないし、ほのぼのとした雰囲気ですが、展開はときにやりきれない、苦いものになります。

個人的に一番きつかったのがガカルとノッティカのエピソードでした。ただ好きな人と一緒にいたかっただけなのに地獄に落ちなければいけなかったふたりのことを考えると心が痛みます。

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『レベルE』冨樫義博

レベルE 上 (ジャンプコミックスDIGITAL)

野球進学のために親元を離れた高校生、雪隆のマンションに、記憶喪失の宇宙人を名乗る男がいた。自由すぎる彼のせいで、雪隆はトラブルに巻き込まれることに。稀代のトラブルメーカーでいたずら者の「バカ王子」をテーマにしたSFコメディシリーズ。

予測のつかない展開でありながら、「面白さ」という期待は裏切りません。わかりやすい王道展開を拒み、何度も読者を騙しながら、納得のオチへ持っていきます。

どこまでもベタを拒むひねくれた内容ではありますが、そこが私みたいにひねくれた人間には心地いいんですよね。

あと著者の女性の描き方が好きなんですよね。基本的にベタなヒロイン像は描かないし、男にもめったに媚びません。媚びることがあっても、媚びることを武器にしている女性が多いです。マクバク族のサキ王女はその極みで、クラフトの前では庶民的な女性を演じつつも、裏では種族の本能に忠実な、戦闘力高い女性であることがわかります。

こういう男に都合の悪い女が大好きなんですよ。HUNTER×HUNTERもそういう女性がいっぱい見られるから好きです。 

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『はたらく細胞BLACK』

はたらく細胞BLACK(1) (モーニングコミックス)

人体の細胞が人の形をしている世界。作られたばかりの赤血球は、これからの仕事に期待を膨らませていた。しかしその身体は、アルコールや喫煙、暴飲暴食によって蝕まれた不健康な体だった。過酷な労働に駆り立てられ、疲弊していく現場は多種多様な病魔にむしばまれていく。

擬人化された細胞たちがときに働き、ときに戦うシリーズ。

ブラックな労働環境で働く細胞たちは本当にかわいそうなんですが、同時にシンパシーと嗜虐的な喜びも感じてしまいます。それは働いていると「この仕事本当に意味があるのか……?」と思ってしまう瞬間があるからでしょうね。

働いても働いても環境が改善されない状況で苦しむ細胞たちに、「うちの職場も同じだよ」と思い、「きみたちも同じように苦しんでほしい」と暗い感情を抱いてしまう。

科学的な要素だけではなく、働く己自身を投影してしまう作品でした。

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『イワとニキの新婚旅行』白井弓子

 

イワとニキの新婚旅行 (ボニータ・コミックス)

宇宙人の「帝国」が人類を支配して500年。帝国は効率的に支配をするために、人類が持つ神話を利用した。宇宙人に与えられた神話の中でときに抗い、ときにやり過ごす人類たちを描いた連作短編。

宇宙人に支配されている、というと人類の反抗の物語を想像するかもしれませんが、それとはちょっと違います。

この作品の中の人類は、神話に対してときに従順に、ときに抗い、態度を使い分けてしたたかに生き抜いています。

不思議な岩の巨人や、神と等しい力を持っているAIなど、SFならではの人外キャラクターが楽しいです。

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『有害無罪玩具』詩野うら

有害無罪玩具 (ビームコミックス)

博物館にやってきた女性。職員が取り出し説明するのは、不思議なおもちゃたち。命を持つシャボン玉、未来に描く絵を出力する機械、並行世界を覗けるバッジ。それらのおもちゃを使ってみるたびに、奇妙な感覚に襲われる。表題作ほか、不安と懐かしさが混在するSF短編集。

不死の人魚が人の世界を通り過ぎる「金魚の人魚は人魚の金魚」が面白かったです。

何一つ解決せず、不老不死の金魚の周りで人が死んだり生きたりするだけのお話です。

意味なんてないよと積極的に肩透かしを食らわせてくるような作品なのに、面白いから不思議なんですよね。

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『ブレーメンⅡ』川原泉 白泉社文庫 感想

ブレーメンII 1 (白泉社文庫)

 

あらすじ・概要

宇宙船ブレーメンⅡの船長に抜擢された主人公は、そこで知性ある動物たちと働くことになる。初めてのことに戸惑いながらも、主人公は動物たちと困難を乗り越えていく。旅の終わりに、出会った1匹の黒猫とは……。

 

こんなご都合主義なハッピーエンドもあっていい

さすがに人生こんなにご都合主義にはならないでしょうが、こうして救われる作品もあっていいと思える内容でした。

虐げられたもののために、みんなが立ち上がるシーンは何だか泣けてきます。本当にこういう世界であればと思いました。

テンポがいいのでサクサク読め、それぞれの話がポジティブな形で終わるので、疲れているときに染みる話です。

とはいえ黒ヤギと白ヤギの話は悲しいですが、それでも希望のある終わり方でした。

 

女性主人公なのに、好いた惚れたの話がなくすすむのがいいですね。恋愛をするキャラクターはいますが、それはゲストキャラです。主人公は一切恋愛しません。

それでもわざとらしくなく、自然に話が進むのもよかったです。

女性向け漫画はこうあるべき、という規範に囚われないからこそ、ポジティブでご都合主義な展開もすんなり入ってきます。

 

登場する動物たちはみんなかわいいです。リアル調のときとコミック調」のときがあるのが気になるけれど、これも一種の演出なのかもしれません。

 

 

 

 

ハロウィンに読みたい!人外キャラが魅力的な小説34選


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たまには季節ものの記事を書こうということで、今回はハロウィン人外小説特集です。

普段からライトノベルを読んでいるため圧倒的にライトノベルが多くなってしまいました。

 

 

ファンタジー

 

『おちこぼれ退魔師の処方箋』田井ノエル

おちこぼれ退魔師の処方箋 ~常夜ノ國の薬師~ (マイナビ出版ファン文庫)

退魔師の家系に生まれた咲楽。しかし彼女には退魔の力はなく、魔者を癒す力があった。癒しの力の代償に体に穢れを貯め込んだ咲楽は、常夜で暮らす魔者鴉に拾われる。薬師である彼は咲楽を「商品」として店に置いた。ふたりの奇妙な共同生活が幕を開ける。

咲楽を拾ってくれた鴉は、人間社会とは違う価値観を持っています。家族という概念が乏しかったり、倫理観がずれていたり。

しかし家族に疎まれ、周囲に虐げられ、傷ついてきた咲楽にとっては自分を受け入れてくれる鴉の存在がありがたかったのでしょう。咲楽は魔者たちとの交流によって自分を取り戻し、やりたいこともできました。

現実にはこんな交流はありえないでしょうが、ファンタジーだからこそ、人でないものたちを描いたからこそ持てるつながりは面白かったです。

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『となりの魔王』雪ノ下ナチ

となりの魔王 到来編 (ビーズログ文庫アリス)

田舎の田園地帯に暮らす夏織(かおり)の家の隣に、魔王が引っ越してきた。ファンタジー世界から抜け出たような彼に夏織は戸惑うが、地域の住民はあっさり受け入れているようで……。夏織は、ご近所さんとして魔王と付き合い、その一般人とは違う思考回路に振り回される。

あらすじ自体は本当に何気ないもので、洗濯機の使い方を教えたり、流しそうめんをやったり、花火をやったり、とりたてて大きな伏線もなければどんでん返しもありません。そういう何気ない話をここまで面白く愉快に書けるのがすごいです。

やたらと古風で中二病なしゃべり方なのに案外お人好しで、子どもっぽいところもある魔王と、普通の女子高生だがツッコミ力が高くモノローグの面白さが群を抜いている夏織の、恋愛要素のない交流は本当によかったです。

お互いに好意や情はあるものの、恋愛フラグが立たない関係っていいよね。

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『地獄くらやみ花もなき』路生よる

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

宿を失くしネットカフェを泊まり歩いていた遠野青児は、罪を犯した人間が妖怪の姿で見えてしまうという力があった。彼は不思議な館に迷い込む。そこにいたのは不思議な少年、西條皓(さいじょう・しろし)。彼は鬼の代わりに罪人を地獄へ送り込む仕事をしていた。青児は、住み込みで皓の元で働くことになった。

人の姿をしているけれど人間ではないショタと、平凡でありながらどこか世間とずれている主人公の怪奇系ミステリです。

皓と青児の飼い主とペットのような関係が面白いですね。ヤバい館だと思っているのにおいしい食事や衣食住につられて環境になじんでしまう青児と、そんな青児を面白がって傍に置こうとする皓。倫理的とは言えない関係性ですが、世界観とも相まって楽しくなってきます。

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『人形姫と身代わり王子』みどうちん

人形姫と身代わり王子 (ルルル文庫)

生まれたときから魔界の王子と結婚することを運命づけられていた撫子は、将来の婿、ヴァリーに会えるのを心待ちにしていた。魔界の王子との結婚は生贄のようなものだが、撫子は手紙でヴァリーに恋をしていたのだ。しかしやってきた魔界からの婿は、替え玉だった……。

ヒロインがお嬢様口調、猪突猛進の恋する女の子という尖った設定。しかしこのヒロインがかわいいんですよね。育ちがよくて世間知らずだけどいい子だし、案外周りを見ているところもあるし。

ヒーローも偽悪的なところはありますが、魔界と人間界を思って行動できるいいやつで、ヒロインのために体を張る一面も。ふたりとも癖はあるけどほほえましく、お似合いのカップルです。

トラブルがありつつも少しずつ心を通わせていくふたりがかわいい話でした。

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『シスター・ブラックシープ 悪魔とロザリオ』喜多みどり

シスター・ブラックシープ 悪魔とロザリオ (角川ビーンズ文庫)

赤ん坊のころから将来悪魔の花嫁となることを運命づけられたコンスタンティン(コンスタンス)は、男として育てられ教会の助祭として暮らしていた。しかしやはり悪魔は現れ、結婚指輪をつけられてしまう。その指輪を外すには、善行を積むしかないようで……。

コンスタンティンの押しかけ夫である悪魔が、ただ一方的に惚れてくるというより、「倫理のなさ」の結果として言い寄ってくるところがよかったです。倫理のない人外大好き。

悪魔なので、コンスタンティンは死なない方がいいとは思っていますが、それはそれとして「黒い羊」としての慈善活動を成功させようとは思っていないし、悪いことが起こっていてもまあいいかと感じている。そのコンスタンティンとの温度差が怖くてよかったです。

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『ブレイブストーリー』宮部みゆき

ブレイブ・ストーリー 【上中下 合本版】 (角川文庫)

ゲーム好きの小学生の亘は、両親と平穏に暮らしていた。ある日、亘のクラスに芦川という転校生がやってくる。芦川に話しかけようとする亘だったが、冷たくあしらわれてしまった。そんな折、亘の父親が家を出て行ってしまう。彼は亘の母と離婚し、新しい家庭を作ろうとしていた。亘は家庭が元通りになることを求めて、もうひとつの世界へ向かう。

獣人、トカゲ人、小人など、多様な姿をした人々が住んでいる社会が舞台です。種族ごとに文化や得意分野が存在します。

異世界である「幻界」がワタルの心を映している以上、この多様性もワタルの心の一部なのでしょう。最後にワタルが選んだ選択も心に響きました。

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『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』ロケット商会

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録 (電撃の新文芸)

勇者となることが刑罰として扱われている世界。懲罰勇者のザイロは、なりゆきで魔王討伐の武器である「女神」と契約してしまう。ザイロたち懲罰勇者は、絶望的な作戦を任される。

「人間を支える倫理のある人造の人外」「普通に人間をゴミだと思っている人外」「人外なのに自分以外の人外を倒す人外」とよりどりみどりな内容です。

人間サイドもろくでもないやつばかりながら、その中でわずかな勝利をつかむカタルシスが楽しい作品です。

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『哀しみキメラ』来楽零

哀しみキメラ (電撃文庫)

塾のエレベーターで「モノ」に襲われ、その「モノ」と融合してしまった純たち四人の若者。強化された体、食べても治らない空腹。生きていくためには「モノ」を食らっていかなければならない。純たちは共同生活を送りながら、「モノ」を退治する生活をする。

主人公の純、元医学部志望で物静かな水藤、生き残ることに貪欲な十文字、紅一点で明るい彩佳。四人はモノを食らって変わっていく自らの体に戸惑いながら、生き残るために、人間らしい生活をするために尽力します。

自分が徐々に人間ではない者に変わり果てていく恐怖と、同じ境遇の人間と助け合って生きていこうという悲哀がせつない作品です。

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『狐格子~ためたね流御師 真坂野ゆり~』成沢唱

それいゆ文庫 狐格子 ~ためたね流御師 真坂野ゆり~

自分の失敗で異動させられることになった公務員、緒方太一は、「くらし文化特殊支援室」という謎の部署にやってきた。そこは警察では扱えない、怪異事件を解決する部署だった。主任分析官の真坂野ゆりとともに、太一は狐の面をかぶった謎の人物を追うことになる。

主人公は一見明るい好青年だが根は憶病で都合のいい性格で、善人とは言いがたいです。そんな問題のあるキャラクターでありながら、面白く読ませるところが新鮮でした。むしろ探偵役にしてヒロイン、真坂野ゆりのほうが倫理観はまともでしたね。

心霊ものなのですが、超常現象にもどこか優しいゆりの態度が良かったです。恐ろしいけれど切ない霊能探偵ホラーでした。

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『天帝妖狐』乙一

天帝妖狐 (集英社文庫)

杏子は道端で倒れていた夜木という男を拾う。顔を隠した夜木は、何か訳ありのようだが……。表題作と、トイレの落書きをテーマにしたサスペンス「A MASKED BALL」の二編を収録。

こっくりさんの「早苗」と契約した夜木は、死なない体を手に入れる代わりに、怪我をするたびに人間の体を失っていきます。その恐怖と孤独が美しい筆致で描かれています。

そして行き倒れた彼に手を差し伸べた杏子も、孤独を抱えていました。友達との交流の中で浮いてしまい、いつも戸惑うように暮らしています。そんな彼女だからこそ、夜木がひとりきりでいるのが苦しかったのだと思います。

人でないものに変化しつつあるキャラクターが人の愛でこの世につなぎとめられる、そんな物語に心打たれました。

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『狐笛のかなた』上橋菜穂子

狐笛のかなた(新潮文庫)

産婆に育てられた少女、小夜は、犬に追われている狐を助ける。それは、となりの国で使い魔として飼われている霊狐だった。時がたち、小夜が母親の正体を知ったとき、運命が回り始める。同じころ、小夜が出会った男の子が危険にさらされ……。

かなりシリアスな話なので、読むのに時間がかかりました。そして登場人物が多いのも大変です(しかもみんな話にかかわってくるから読み飛ばすこともできないという)

物語の根幹になっているのが「呪い」で、作中では呪いでかなりの登場人物が死亡しています。しかし呪っているほうが幸せに暮らしているかというとまったくそんなことはなくて、とても闇が深いです。

そんな中小夜と霊狐の野火が仲良くしてると少し心が和みましたね。小夜と野火が選び取った結末もよかったです。少し寂しいですが、あの二人にはあれが幸せだったんでしょうね……。エピローグの情景がとても美しいです。

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『空色勾玉』荻原規子

空色勾玉 「勾玉」シリーズ (徳間文庫)

羽柴の村の少女狭也は、輝の大御神の子である半神、月代王(つきしろのおおきみ)に見初められ、采女として都に上がる。だが彼女は、闇の眷属だった。狭也は神殿に戒められた少年、稚羽矢と出会う……。

何度も生まれ変わって地上に現れる闇の氏族と、不死の体を持つ照日王、月代王、のふたりの御子。それが長い長い時の間争いを続け、多くの人々が死んでいく。そんな世界に狭也は「水の乙女」として生まれます。

そんな過酷な状況の中から、不思議な少年と出会うガールミーツボーイ。閉じ込められて世界を知らない稚羽矢は、狭也と触れ合っていろいろな感情を培っていきます。その姿にほっこりする一方で、闇の氏族をめぐる状況はどんどん悪くなっていきます。これからどうなるの! と心配しながら読み進めていました。

神様が今より身近だった神話の世界。人とは違う倫理観で生きるキャラクターが恐ろしい一方、救いも感じる作品でした。

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『バーティミアス』ジョナサン・ストラウド

バーティミアス サマルカンドの秘宝 上 1

魔術師の弟子ナサニエルは、今をときめく魔術師ラブレースに侮辱されたことをきっかけに復讐を企てる。呼び出されたのはジン、バーティミアス。バーティミアスはいやいやながらも生意気な少年の復讐に付き合うことになるが……。

訳あって人間に思い入れがある妖霊と、生意気な魔法使いの子どもとのバディもの。

長いですが一気に読める面白さです。

そしてこのシリーズの特徴的な部分が、バーティミアスの視点のとき語られる注釈。バーティミアス視点のときは文章が二段組になっており、下の狭い段に注釈が入っています。注釈は何気ない情報が多いんですが、さらっと伏線が入っていることもありなんだかんだでしっかり読んでしまいます。本筋とは関係ない注釈でも、バーティミアスの独特のユーモアが込められていて笑えます。

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『森の魔獣に花束を』小木君人

森の魔獣に花束を (ガガガ文庫)

病弱なのに跡取りの試練として、森に入らなければならなくなったクレヲ。そこで出会ったのは植物の魔獣。彼女に食べられないために、クレヲは自分を好きになってもらおうと画策する。

まず何をおいてもロザリーヌがかわいいです。生肉を食べたり人間を襲ったりするんだけどとてもかわいい。

人ではないけれど人ではないからこそ素直なところがあって、ときおり見せるデレにきゅんきゅん来てしまいます。

ヒロインが一人しかいないのに、ロザリーヌのかわいさがとどまるところを知らないのでちゃんとライトノベルになっています。

ロリショタのかわいい恋愛はいいですね。

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『狐の嫁入り 再会したあやかしの彼は大切なことを思い出させてくれました』鳴澤うた

狐の婿入り 〜再会したあやかしの彼は大切なことを思い出させてくれました〜 (DIANA文庫)

いわれのないトレパク疑惑に巻き込まれ、誹謗中傷に疲弊してしまったイラストレーターの咲良。そんな中、祖母のけがで祖母の所有する山の見回りを頼まれる。そこで出会ったのはひとりの青年だった。どうやら彼の本性は狐で、咲良は彼とかつて結婚の約束をしたという。

狐の青年が咲良に尽くすのは、かつて咲良と出会ったことで自分の行動を変えられたこと、そして咲良自身にプロポーズされたことがきっかけで、好きになってしまうのも納得がいきます。

また、咲良も彼に口説かれてまんざらでもないことが早い段階でわかるので、ぐいぐい来られてもあまり怖さがないんですよね。

珍しいくらい優しく紳士的な狐。こんな狐に口説かれたらそりゃ好きになってしまいます。

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『アナンシの血脈』ニール・ゲイマン

アナンシの血脈 上 (角川文庫)

チャーリーの父が死に、チャーリーは自分の父親がクモの神アナンシだったことを知る。自分の兄弟がいると言われ、チャーリーは兄弟、スパイダーを呼び出す。しかし、スパイダーは不思議な力でチャーリーの人生をめちゃくちゃに……。

アフリカに伝わる蜘蛛神の血を引く兄弟が、てんやわんやな展開になるファンタジー。兄が本当にろくでもないけど笑って楽しめる作品です。

終盤の幻想的な展開も個人的には好きです。細かいことを気にせずに読む本。

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『霧の日にはラノンが視える』縞田理理

霧の日にはラノンが視える(1) (ウィングス・ノヴェル)

第七子の呪いを解くため家出してロンドンに向かったラムジー。そこでジャックという青年に拾われる。だがジャックの仲間が殺人を犯し、ラムジーは奇妙な事件に巻き込まれていく。

ロンドンに暮らす妖精たちを描いた現代ファンタジーです。妖精たちはもうひとつの世界からやってきており、現代世界と妖精世界のつながりが作品のテーマになっています。

展開が早くても、お人好しなラムジー、リアリストだけれど情に厚いレノックス、クールで理性的なジャック……とすぐキャラクターが把握できます。

特殊な世界観も、話を追ううちに自然と理解できるので説明不足に感じませんでした。

総合的にすごくまとまりがいいです。それでいて、世界観にオリジナティがあります。

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『ワルプルギスの夜、黒猫とワルツを』古戸マチコ

ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを。 (一迅社文庫アイリス)

新しい靴を手に入れたら、わがままな魔女ベファーナと体が入れ替わってしまった主人公、仮の名はルナ。元の姿に戻るためには、ワルプルギスの夜、黒猫とダンスを踊らなくてはいけないらしい。ダンスが魔法の力を持つ世界で、ルナはベファーナの使い魔、黒猫のノーチェとともに奔走する。

踊ること、魔法を使うことがルナ自身の心理に密接につながっていて、いい意味で世界が狭いというか、どんどん内面世界を掘り下げていく面白さがあります。

踊ることによって発動される魔法のシーンがその象徴で、ダンスの描写とともにルナの心情が示されています。

主人公の相棒であるノーチェのヘタレっぷりもかわいいです。猫耳イケメンヘタレって属性を盛りすぎだけど本当にかわいいです。

 

『フィーヴァードリーム』ジョージ・R・R・マーティン

フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

事故で船を失った船長アブナーは、謎の富豪に出資を持ちかけられる。彼は船を作り、共同経営者になりたいと言う。「フィーヴァ―ドリーム」と名付けられた船は旅立った。しかし、富豪ジョシュア・ヨークには秘密があった。

 

この作品の舞台は奴隷制時代のミシピッピ川です。黒人奴隷は容赦なくこき使われ殺されています。

現実にもあった奴隷制の闇と、吸血鬼幻想の関係、そして人間と吸血鬼のバディ関係が面白かったです。

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SF

 

『スペース金融道』宮内悠介

スペース金融道

宇宙の取り立て屋ユーセフと「ぼく」。上司のユーセフにしごかれながらぼくは借金を取り立てる。植物、アンドロイド、人工生命と、さまざまな知性体からお金を受け取ろうと奔走するが……。

借金をするのが人間とは限りません。多種多様な宇宙の知性体と、彼らから借金を返してもらう工夫が楽しかったです。

個人的に好きだったのは「スペース珊瑚礁」ですね。ミトコンドリア病になった「ぼく」が謎の知性体に取り憑かれる話です。ザックとちょっと友情を結んでいるところにほのぼのしつつ笑えてしまいました。

さらに、バディがめちゃくちゃ仲悪くて面白かったです。どうでもいいことで「ぼく」をぶん殴るユーセフと、虐げられているようで意外としたたかな「ぼく」。別に仲の良くないふたりが仕事のために修羅場をくぐる、この距離感が好きでした。

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『楽園 戦略拠点32098』長谷敏司

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

人類の間では、千年間戦争が続いていた。サイボーグ兵ヴァロアは、敵が必死に守っている謎の惑星に降下する。そこでロボット兵ガダルバと少女マリアに出会い、牧歌的な生活をするようになる。しかし、この惑星には秘密が隠されていた……。

表紙左のメカ兵士と少女、そこにやってきたサイボーグの降下兵の兄ちゃん。この組み合わせ、人外好き、おにロリ好きな私にとってはクリーンヒットでした。

そんな彼らが誰もいない花にあふれた惑星で、牧歌的な生活をする……ただそれだけの作品です。

その情景がとても美しく、ロマンに満ち溢れていて好きです。こんな生活ができたら本当に幸せだろうなと思いました。

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『鉄コミュニケイション』秋山瑞人

鉄コミュニケイション(1)ハルカとイーヴァ (電撃文庫)

戦争によって人類が滅んだ未来。ロボットと暮らしている人間の生き残りハルカは、ある日自分とそっくりのロボットに出会う。彼女の名前はイーヴァ。彼女の同行者ルークとともに、ハルカたちとイーヴァは共同生活を始める。しかしルークとイーヴァには秘密があるようで……。

わりとライトノベルの「子ども」って大人びて書かれることが多いので、ハルカの子どもっぽさは新鮮でした。悪い意味ではなく、考えなしだったりいろんなものにあこがれたりする部分に自分を重ね合わせられていいと思ってます。そういう部分が逆にかわいいです。

ロボットたちもキャラクターが豊かなので、読んでて面白いです。お気に入りはアンジェラさんですかね。ああいうクールビューティ的なキャラクターに弱いです。みんななんだかんだ言ってハルカのことを思っているところが愛しいです

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『アンゲルゼ』須賀しのぶ

アンゲルゼ 孵らぬ者たちの箱庭 (集英社コバルト文庫)

内気な中学生陽菜の唯一の楽しみは、歌を歌うと現れる不思議な女性「マリア」と交流すること。そこで隣の中学校に通う尚吾と出会い、秘密を共有できる相手ができて陽菜は喜んだ。しかし、マリアには大きな秘密があった。

少年少女がえげつない戦争をさせられる話。つらいので精神的に元気な時に読んでほしいです。

読み進めるうちに、敵である「アンゲルゼ」の様子もわかってきます。残酷で気まぐれ、でもどこか純真さのあるアンゲルゼの姿が恐ろしくも美しかったです。

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『あなたのための物語』長谷敏司

あなたのための物語

金も名声もすべてを手に入れていた研究者サマンサ。彼女は<wanna be>という仮想人格を作り、それに小説を書かせる研究を始める。しかし同じころ、サマンサが不治の病を抱えていることが判明。死の恐怖から仕事に打ち込むサマンサのために、<wanna be>は彼女のためだけの物語を描く。

サマンサの役に立ちたいのに、実験道具の枷がはめられた<wanna be>には物語を作ることしかできません。その葛藤が切なかったです。

それでも全力を尽くして「何かお役に立てますか」と言い続けた重み。定型文なんかじゃなくて、それは<wanna be>の存在意義だったんだなあと思います。そして存在意義を与えてくれた人を好きになってしまうのは当然のことですよね。

人工人格ゆえの愛し方しかできない姿が悲しかったです。

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『世界の終わりの壁際で』吉田エン

世界の終わりの壁際で (ハヤカワ文庫JA)

災厄が予言されている日本。一部の人は壁の中で守られ、それ以外は壁の外で細々と暮らしていた。ネットゲームで賞金を稼ぐ片桐は、雪子というアルビノの少女と謎の人工知能に出会う。

人間に近づけば近づくほどポンコツになっていくという新しい人工知能モデルを示しています。赤ちゃんみたいだな……。

そんなコーボが片桐と友情をはぐくんでいくのがよかったです。素敵なカバーを買ってもらえるといいですね。

コーボだけではなく女性陣の強さも良かったです。肉体的であれ頭脳的であれ女性がガンガン戦っていく展開好きです。

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『猫の地球儀』秋山瑞人

猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

「天使」が滅び、知性ある猫たちが暮らしているスペースコロニー、トルク。スパイラルダイバーの焔(ほむら)は、最強の名を手にした後、名前も知らない黒猫に敗北する。黒猫は「スカイウォーカー」と呼ばれる、猫の魂が行きつく場所、「地球儀」を目指す存在だった。

登場人物は全員猫で、電波を飛ばすひげを持ち、その電波でロボットを操って文明を成り立たせています。表紙の美少女ももちろん猫。

主食はゴキブリとネズミ、ロボットの肩に乘って移動、独特の宗教観……などなど、「もしも猫が文明を持ったとしたら」という社会が丁寧に描かれています。

天才と天才の友情を描くブロマンス小説でもあります。

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『ビスケット・フランケンシュタイン』日日日

ビスケット・フランケンシュタイン (メガミ文庫)

体の一部が謎の物質に置き換わる奇病が蔓延する世界。患部をつぎはぎにした人形は、自我に目覚めた。ビスケという名を得た怪物は、徐々に荒廃していく世界をさまよう。生まれてきた目的を求めて。

タイトル通り、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』がオマージュ元になっています。

創造主に愛されず、世界をさまようところ、「なぜ生まれてきたのか」を思い悩むところ、そして「人間性」を獲得するところは、もともとの『フランケンシュタイン』を踏襲していて面白かったです。

つぎはぎの怪物が動かす悲しくグロデスクな物語でした。

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『人間たちの話』柞刈湯葉

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

姉の子を引き取った学者が地球外生命体の研究と向き合う表題作ほか、雪に覆われた日本で南を目指す男と少年、相互監視が行き届いた世界で楽しく暮らす人々、どんな宇宙人たちにもラーメンを提供するこだわりのラーメン屋などを描いたSF短編集。

「宇宙ラーメン重油味」は、スペースオペラ的な世界観でラーメン屋を営む男性の物語。宇宙人たちは人間とは食べるものが違うため、重油やシリコン、果ては多種多様な有機物の混ざったスープなどを提供しています。

ストーリー上はメシテロ作品のはずなのに、読者である人間にとっては何もおいしそうではないところがちぐはぐで面白いです。

そして店主の揺るがぬプロ意識はお仕事ものとしてもかっこいいですね。

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『101メートル離れた恋』こまつれい

101メートル離れた恋 (講談社ラノベ文庫)

男子高校生のユヅキがある日目覚めると、セブンスというオートマタになっていた。そこは現代社会に似ているが、魔法に満ち溢れた世界。オートマタとしてレンタルされ、男性と性行為を行うセブンスは精神をすり減らしていく。そんな中、セブンスはイチコという少女にレンタルされ……。

主人公が「男子高校生のユヅキ」と「女性型オートマタのセブンス」の間で自我が揺らいでいるところがTSF的に興奮します。

ユヅキは男子高校生なのでかわいい女の子にちょっと優しくされるだけで心惹かれてしまいますし、オートマタのセブンスは過酷なレンタル生活の中で「友達」として接してくれるイチコが大好きになってしまいます。シーンによってどちらの性別が浮かび上がってくるか変わるところが最高。

TSものとしてもアンドロイドものとしてもかなり癖のある結末なのですが、私は好きです。

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『人類は衰退しました』田中ロミオ

人類は衰退しました1 (ガガガ文庫)

人類最後の最高学府を卒業し、故郷に戻ってきた「わたし」。そこで調停官という仕事に就くが、実質お飾りの役職らしい。調停官の「わたし」は今地球を支配する新人類、「妖精さん」にコンタクトを取り、交流していくが……。

「わたし」が現人類、妖精さんたちと触れ合い、高度な建築物や疑似生命を生み出すその技術力にビビり、めちゃくちゃになってしまったペーパークラフト世界を呆然と見つめるのは面白かったです。

「わたし」の反応も根暗な人見知りではあるものの、人間らしくて共感できるんですよね。楽な仕事をしたい、責任は取りたくない、でもある程度のモラルはある、というキャラクター造形が好きです。

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現代・日常

 

『家電彼氏』雪ノ下ナチ

家電彼氏 (ビーズログ文庫アリス)

大学進学をきっかけにひとり暮らしを始めた塔子。しかし家に置いてある、体重計や電子レンジ、掃除機が勝手にしゃべり始める。彼らは塔子の彼氏面をし出し、何かと塔子の私生活に口を出すようになる。塔子は個性豊かな家電たちに翻弄される毎日を送る。

イラストには美麗な擬人化キャラが添えられているんですが、あくまで本文中では家電は家電であり、人間の姿をしていません。

つまり塔子は文字通り家電に彼氏面をされています。

ある意味人外×人間ものだと言えるのかもしれませんが、相手が家電なのでロマンチックさのかけらもありません。塔子に彼氏っぽいものができそうになると「家電に例えるとどんな感じ?」と聞くし、機能をディスると機嫌を損ねます。

トンチキ系人外ものとしてはおすすめです。

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『先生とそのお布団』石川博晶

先生とそのお布団 (ガガガ文庫)

売れないライトノベル作家、石川布団。人の言葉を理解する猫「先生」とともに、今日もひたすら小説を書く。打ち切り、出版、また打ち切りと、出口の見えない戦いに疲弊していく布団だったが……。

売れない小説家と対話してくれる猫がかわいいです。こんな猫がいてくれたらいいですね。

私小説に「どのくらいまで本当なのか」と聞くのはやぼだから置いておいて、作中に特別悪い人が出て来ないのがよかったです。

布団に冷たくする編集者たちにも、レーベルを守るためには、売れない小説ばかり出していくわけにはいかないという事情があります。誰が悪いわけでもないのにうまくいかないもどかしさが面白かったです。

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『ヴァンパイア・サマータイム』石川博晶

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)

吸血鬼と人が共存する世界。両親の経営しているコンビニで働くヨリマサは、毎日紅茶を買いに来る吸血鬼の少女が気になっている。会話するようになったふたりは、小さな事件を経て仲良くなっていく……。

ボーイミーツガール、異種間の恋と、直球なストーリーであるこの作品ですが、まずお勧めしたいポイントは文章がべらぼうに上手いこと。

美しいけれど自然で、きざな感じがしない。ライトノベル作家の中でも文章の上手さはトップクラスになると思います。

吸血鬼と人間が共存する世界で、本来交わらないはずの生活が混じり、また離れていく切なさが面白かったです。

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『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

第二次世界大戦中、キスカ島に取り残された4匹の軍用犬。彼らはそこから子孫を増やし、世界中に広がっていく。一方で、ソビエトが滅んだロシアでは、ある老人が、犬とともに何かを始めようとしていた。

この本の最高なところは、犬が主人公なところですね。人間の物語もあるけれど、それはおまけにすぎません。

主人公が犬なので、人間の倫理観にとらわれず、自分の本能と欲望に従って行動する姿が本当に楽しいです。

私のお気に入りはアイスです。彼女(雌犬なので彼女)は飼われていた家から脱走し、野犬となってアメリカの街を恐怖させます。でもそこに悪意はなく、はっきりとした生存欲求だけがあります。それがすがすがしくて大好きです。

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以上です。興味があれば読んでみてください。