有名だけれど実は読んだことのなかった作品です。
これもまたベストセラーを時間をおいて読んでしまう習慣のせい。
あらすじ
家政婦として生計を立てるシングルマザーの「私」は、80分しか記憶の持たない「博士」の家へ派遣されます。子どものように偏屈でありながら、「私」の息子のルートにはとても優しい博士。「私」と「博士」は次第にお互いを尊重するようになります。
80分しかもたない愛の話
80分間しかもたない記憶の中で、いかに心を通わせるかというテーマが個性的でした。
最初はこんな人とよく付き合えるなと思うんですが、読み進めるにつれて、「博士」の優しさがわかってきます。
80分しか記憶が持たないので毎回初対面なのに、ルートと家族のように接することのできる博士。自分は子どもを守らなければいけないという発想が毎日起こってくるのが不思議でいとおしいです。
淡々とした文章ですが、深い情愛を感じられてよかったです。こういう風に人を愛せればすばらしいでしょうね。
数学の形を借りたおとぎ話
前に「この本は数学の美しさを示していない」という批判を見かけたことがあるんですが、読んでみるとそれもちょっとわかる、と思ってしまいました。かなり初歩的な内容しか書かれていないし。「数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜を思い出すな」と思ったらほんとに参考文献がこれでした。
ただ、作者が最初から数学をエッセンスにしたおとぎ話として書いているのであれば、そういう批判は的外れかもしれません。
情愛あふれる面白い作品ですが、数学的な要素を求めて読むと、裏切られるかもしれません。あくまで雰囲気とキャラクターを楽しむ小説だと割り切ったほうがいいでしょう。
まとめ
しっとりと読めて面白かったです。感動ものは好んで読むわけではないんですが、たまに読むと新鮮ですね。
普段小説を読まない人にもとっつきやすい一冊だと思います。そういうところが売れる理由なんだろうなあ。