おたくの友人に話を聞くと、SFに苦手意識を持っている人は多いみたいです。確かに専門知識が必要なものは難しいけれど、それはSFに限ったものではないので気楽に読むといいと思うんですけどね。
そんなSFが苦手な人がわかりやすいように、自分がおすすめするSFを難易度ごとに仕分けしてみました。
ただ難易度は主観なので、「読んでみたら難しかった」というのがあっても怒らないでください。
初級
初級では「SF知識がなくても不思議要素を受け入れられればOK」という作品を集めました。「少し不思議」系の作品が多め。
『ある日、爆弾がおちてきて』古橋秀之 電撃文庫
「時間SFと少女」をテーマにしたSF短編集。
ライトノベルらしいポップな語りでありながら、時間SFの多様さ、面白さを実感できる作品です。ライトノベル好きだけでなく、SF初心者に広くおすすめできる一冊です。
そして登場する女の子がみんなかわいい。よしよししてあげたくなる可愛さです。キャッキャウフフしたい。
『となり町戦争』三崎亜記 集英社文庫
となりの町と戦争することになった社会で、「見えない戦争」がじわじわと環境を変えていく話。
見えないゆえに、より不穏さを感じてしまいます。日常の中で人が死んでいくことにじわじわ恐怖に首を絞められます。
不条理で謎の多いですが、妙に忘れられない作品です。
『世界でたったひとりの子』アレックス・シアラー 竹書房文庫
人間が老いることのない世界で、数少ない「本物の子ども」の主人公が親代わりから逃亡する話。
少年少女向けのSFだけあって読みやすいです。しかしそれとは裏腹に展開はかなりハードです。終始ハラハラしっぱなし。
現代社会への風刺性も感じられる、ブラックなサスペンスSFです。
『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス ハヤカワ文庫
知的障害を持つ青年が、知能を上昇させる手術を受けて天才になる話。
知能の上昇により、周りの悪意に気づいてしまうのが悲しくてやるせないです。日記形式で書かれているので、子どものような文章から、どんどん高度な文章になっていくのがすごいです。
タイトルがラストにぴったり合っていてそこも感動ポイントです。
『All You Need Is Kill』桜坂洋 集英社スーパーダッシュ文庫
「ギタイ」と呼ばれる謎の存在が人類を襲っている未来。新兵の主人公が初出撃の日をループする話。
ゲームのようなループものですが、オチはかなりやるせないです。どうにもならなかった……という無力感を覚えます。
あとヒロイン、リタが可愛くて好きです。ラブストーリーとしても面白く読める作品です。
All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 桜坂洋
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/04/05
- メディア: Kindle版
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『煙突の上にハイヒール』小川一水 光文社文庫
小川一水によるSF短編集。
現代社会にテクノロジーが付け加えられているようなSFで、物語に入り込みやすいです。科学技術が身近に感じられます。
個人的には「おれたちのピュグマリオン」が一番好きです。最後のオチが秀逸ではっとさせられました。
近未来の人間たちの日常に共感できるSFでした。
『世界の終わりの壁際で』吉田エン ハヤカワ文庫
国家を亡ぼすような大災害が予言されている未来。より安全とされている巨大な壁の中を目指す少年の話。
オンラインゲームがキーになっているので、ゲームが好きな人はとっつきやすいと思います。
成長しすぎてどんどんポンコツになっていく人工知能も可愛いです。人工知能にとって「人間らしさ」は必ずしも美徳ではないと感じますね。
中級
「長い」「読みにくい」「知識が必要」などと言った理由でファーストチョイスにはおすすめしない本です。
でも上級ほど難しくないので、意欲があればぜひ読んで欲しいです。
『猫の地球儀』秋山瑞人 電撃文庫
知能を持つ猫たちが暮らす、宇宙に浮かぶコロニー。そこには地球を目指して格闘する一匹の猫が……。
猫が主人公というライトノベルらしからぬ設定。表紙の女の子は主人公の相棒ロボットです。
文章そのものは美しく非常にわかりやすいですが、かなり過酷な内容なので、精神的に余裕があるときに読むのをお勧めします。
泣けるけど、感動の涙ではなく「どうしてこうなったんだ」という涙です。
『くらやみの速さはどれくらい』エリザベス・ムーン ハヤカワ文庫
自閉症が生まれてくる前に防げるようになった時代。最後の自閉症の世代の青年が、職場の上司に自閉症を治す手術を迫られます。彼は自閉症でなくなった自分は自分なのだろうかと悩みます。
初級で紹介した『アルジャーノンに花束を』のオマージュ的な作品。自閉症の人が見ている世界を丁寧に描写しているところが興味深いです。
高機能自閉症を持つ人にとっては、彼の抱える葛藤も身近なものではないでしょうか。
くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)
- 作者: エリザベス・ムーン,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
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『人類は衰退しました』田中ロミオ ガガガ文庫
人類が衰退した未来、新人類「妖精さん」との橋渡しをする主人公「わたし」の事件簿。
文体はいかにもポップなライトノベルと言う感じなのですが、考え込まないと理解できないひねったオチや、SFの名作パロディが多いのでそれがわかったうえで読んだ方が楽しいと思います。
そしてシリーズ最終巻でのどんでん返しにはびっくりします。もう一度最初から読み返したくなります。
『know』野崎まど ハヤカワ文庫
人造の脳葉「電子葉」が実用化された未来。政府の役人連レルは恩師の残した少女、知ルと出会い、彼女と行動を共にすることに。
知ルのチートな戦いっぷりがかっこよくて好きです。夢の中で戦っているようで気味の悪さもありました。
そして小説のラスト一行にやられます! うわぁ、ってなる感覚は久しぶりでした。一癖あるオチが素晴らしいです。
『アイの物語』山本弘 角川書店
人間が衰退し、ロボットが地球の主役になった未来。人間至上主義団体のの男性に、ロボットアイビスが物語を読み聞かせる千夜一夜物語。
人間のフィクションから生まれてきたロボットは、どのように人間をとらえているのか。ロボットなりの人間への愛情が見えてきます。
結末はハッピーエンドではありますが、人間がこのエンドにたどり着けなかったという点では皮肉な話です。
『チグリスとユーフラテス』新井素子 集英社文庫
植民星最後の子ども、ルナ(といっても登場時点で老女)が訳あってコールドスリープをした女性たちを起こしていく逆年代記。
コールドスリープに入った女性たちは不治の病で、起こされれば苦しんで死ぬしかない。ルナを殺さなければ他の女性もまた死んでしまう。しかし……という葛藤が絶望的で心がつらいです。
かなり長いので読むのに苦労しますが、設定や話の流れは難しくないのでのんびり読んでもらえれば。
『われはロボット』アイザック・アシモフ ハヤカワ文庫
かの有名なロボット三原則を軸にしたSFミステリー連作短編集。
読むときに結構頭を使いますが、オチがきちんとわかりやすいのでその点では読みやすいです。謎解きのハラハラする感覚が楽しいです。
「ロボット三原則」というテーマだけでここまで多様な展開が書けるのか、とわくわくして読めます。
われはロボット 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
- 作者: アイザック・アシモフ,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: 文庫
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『ドッペルゲンガーの恋人』唐辺葉介 星海社
クローン技術によって死んだ恋人を復活させた主人公。しかし彼女は自分が誰なのか迷い、精神に異常をきたしていきます。
設定そのものは単純ですが、クローン女性の心理が生々しく描かれていて恐ろしいです。まさに共感できる怖さ。
ハッピーエンドともバッドエンドともつかない、人を食ったような結末も好きでした。
- 作者: 唐辺葉介,シライシユウコ
- 出版社/メーカー: 講談社
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- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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上級
それなりにSFの知識がないと厳しいかなあというレベル。初見では挫折するかもしれません。
でも難しいものにチャレンジするのも新鮮で楽しいですよ。
『戦闘妖精・雪風(改)』神林長平 ハヤカワ文庫
ジャムと呼ばれる謎の敵と戦うフェアリィ空軍。そこに所属するパイロット零(れい)と人工知能を搭載した戦闘機・雪風の物語。
人間と全く違う思考をする人外萌えなので、話が通じてるようで通じてない少し通じる戦闘機・雪風が好きです。かわいい。
話を追うごとに抽象的な話が多くなってくるので大変です。
『紫色のクオリア』うえお久光 電撃文庫
人間がロボットに見えるゆかり。その友人のまなぶ。人間の認識から世界が変わっていく物語。
ゆかりを救うために平行世界の自分と連携するまなぶがどんどん手段を選ばなくなっていくところにホラーを感じました。
とんでもなく壮大なテーマを扱いながら、最終的には二人の関係性に戻ってくるというミクロとマクロの対比が面白かったです。
- 作者: うえお久光,綱島志朗
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/07/10
- メディア: 文庫
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『虐殺器官』伊藤計劃 ハヤカワ文庫
テロ対策として監視システムが一般的になった近未来。アメリカの特殊部隊員が紛争を振りまく謎の男を追う。
テロの世紀にふさわしいディストピアSF。ラストの絶望感が尾を引きました。こんなのってないよ!
登場するメカもかっこよくてわくわくします。機械にときめく人には楽しいと思います。
『一九八四年』ジョージ・オーウェル ハヤカワ文庫
すべての情報が検閲されている時代。過去の新聞や本を改竄し、記録を書き換える仕事をしている男の物語。
全体主義について勉強したことのある人には心当たりがばしばし出てくる内容です。私も専門はドイツなので「わかる!」となりながら読みました。
トランプ大統領の登場で再ヒットした作品でもあります。
- 作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
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『あなたのための物語』長谷敏司 ハヤカワ文庫
人工人格に小説を書かせる研究をしているサマンサは、不治の病だということがわかり……。
超理性的な研究者が死の恐怖を前にして、理不尽な言動に出るところがリアルで恐ろしかったです。いつかは自分もこうなるのだろうか、と思うとサマンサに感情移入してしまいます。
そしてサマンサを助けるために人工人格<wanna be>のした決断は意外なものでした。詳しくは本の中にて。
『シュピーゲルシリーズ』冲方丁 角川スニーカー文庫&富士見ファンタジア文庫
テロの嵐吹き荒れる近未来のミリオポリス(ウィーン)。街を守るサイボーグ少女たちの戦いを描きます。
手足を失った子どもたちがサイボーグ化されて戦闘員になるというブラックで過酷な設定です。
けれど話が進むにつれ、否が応でも子どもを戦わせなければいけない大人の事情がわかってきます。困難の中で少女たちを守ろうとする大人たちもかっこいいです。
オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1)
- 作者: 冲方丁,白亜右月
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫
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スプライトシュピーゲル I Butterfly&Dragonfly&Honeybee (1) (富士見ファンタジア文庫 136-8)
- 作者: 冲方丁,はいむらきよたか
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫
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まとめ
わかりやすいように難易度別に仕分けしたものの、あらすじを読んで気になるものから読んでいけばいいと思います。
そして内容がよくわからなくても落ち込んだりしないこと。今は読むときではなかったのかもしれないし、少し寝かせて読み返すとまたちがった感想を持てるかもしれません。