ブックワームのひとりごと

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不倫ものがやたらと多いけれど不思議と飽きない 向田邦子『思い出トランプ』感想

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思い出トランプ (新潮文庫)

リーディングスタイルの企画、バースデー文庫の11月28日の本です。

私の誕生日。

 

 

 

あらすじ

坂の上に愛人を囲っている男、息子の指をうっかり切り落として別居になった女。それぞれが見出す日常の中のいびつ。小説新潮に乗せた短編を、トランプになぞらえてシャッフルし並べ替えた本。

 

 

不倫話多いけどちゃんと書き分けている

やたらと不倫話が多いのですが、不倫のバリエーションが多種多様なので面白く読めました。なぜこんなに不倫にこだわるのかは不思議なんですが。

平凡な日常の中で垣間見える人間の心の怖さ、したたかさがありました。一筋縄でいかないところがリアリティを感じます。

 

各話感想

かわうそ

脳卒中になった夫とそれを支える利発な妻。

ラストにぞっとする話です。ホラーではありませんが、ある意味ホラーよりも恐ろしかったです。

 

「だらだら坂」

坂の上に美人ではない愛人を囲う男。しかし愛人は少しずつ美しくなり……。

徐々に「普通の美人」になっていく女にがっかりするようなほっとするような、複雑な気持ちを抱えている男が面白いです。

 

「はめ殺し窓」

自分の母親に似た娘を心配する父。彼の母親は不倫をしていて……。

根拠のないことにはらはらしている主人公がどこかおかしかったです。それでいて、最後のオチの突き放すような終わり方が好きでした。

 

「三枚肉」

かつて関係を持った部下が結婚した。主人公は式に出ることになる。

気づかなければよかったのかもしれませんが、気づいてしまえば後に戻れません。肉をむしゃむしゃ食べながら普段通りの三人が怖かったです。

 

「マンハッタン」

マンハッタンというスナックができるのを、妻と別居中の男は興味津々で眺めている。

ダメ男っぷりが逆に愛しくなってくる話です。のちのち店員に嫌われそうな客だな……と思いました。

 

「犬小屋」

かいがいしく犬の世話をしてくれる魚屋の青年。彼には目的があった。

気を持たれても応えられないことの残酷さを感じました。でも、彼なりに幸せに暮らしているようでよかったです。

 

「男眉」

地蔵眉に生まれついた妹。主人公と彼女の違いとは……。

ふわふわしているようでしたたかな妹。何かと自分と比べてしまう主人公の哀しさが親近感を持てます。

 

「大根の月」

過失で息子の指を切り落としてしまい、妻は夫と別居することになる。

どうしようもない罪悪感に駆り立てられながら、それでも少し希望のある結末でよかったです。登場人物には頑張ってほしいです。

 

「りんごの皮」

かつらを買った主人公。金の無心をしてくる弟に会うときにつけようと考える。

かつらをかぶった主人公が、かつらをタクシーにひっかけるシーンがちょっと笑えました。

 

「酸っぱい家族」

飼い猫がつかまえたオウムの死骸を捨てようと、街をさまよう男。

ラスト数行にうわあ、となる作品。

 

「耳」

風邪を引いて一日家にいる男は、弟が中耳炎になったときのことを回想する。

昔やってしまったことが、今となって意味を持って思い出すことがあります。そういうシチュエーションを描いた作品。

 

「花の名前」

趣味のない夫に、少しずつ花の名前を教えていく妻。しかし、夫は変わってしまった。

夫のいら立ちもわかるし、妻の悲しみもわかる。どうしようもない時の流れを感じました。

 

「ダウト」

 いつも定職につかず、それでいて女性には好かれる従弟。彼が主人公の父親の葬式にやってきた。

やってしまったことを「見られたのではないか」と不安に陥る人々の心理がよく描かれていました。

 

まとめ

不倫ものばかりなので、とにかく不倫の話が見たい人にはいいかもしれません(いるのか?)。

人間のどうしようもない部分がきっちり描かれている短編集でした。

 

新装版 父の詫び状 (文春文庫)

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思い出トランプ (新潮文庫)

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