ブックワームのひとりごと

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科学技術を駆使した叙情的な短編集 菅浩江『そばかすのフィギュア』感想

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そばかすのフィギュア

ハヤカワ文庫セールで買った本のラスト。

 

書籍概要

宇宙船の一部屋で暮らしている病気の少女、絵の学校にやってきた機械の少年など、さまざまな情景あふれるSF短編集。

 

 

描写力が光る短編集

一番印象的だったのは、作者の描写力です。どの作品にもはっとするようなシーンがあり、それが映画のようにありありと想像できます。

設定を深めるより、そこにある心理や情景についてきっちり描写していくSFだと感じました。

設定はそれほど難しくないので、SF初心者にも読みやすいと思います。

 

各話感想

「雨の檻」

病気によって宇宙船の一室に一人で暮らしている少女。しかし、彼女を世話していたロボットが狂い始め……。

機械たちの不器用な愛情が悲しいです。どうにもならなさで胸がいっぱいになりました。

この本の中では一番好きです。

 

「カーマイン・レッド」

絵の学校に入ってきた機械の少年。主人公は彼と友達になるが……。

「赤」の扱いが印象的な話でした。絵として彼の最後のシーンを想像するとぞっとするものがあります。

 

「セピアの迷彩」

クローンである良美は、オリジナルである智子と会うことになる。良美は智子を深く恨んでいた。

二人の間にある愛憎に飲み込まれそうでした。お互い相手に振り回されていたんでしょうね。

 

「そばかすのフィギュア」

キャラクターのデザインコンテストで入賞した靖子は、作ったキャラクターを模したフィギュアを作ることになる。

キャラクターに感情移入してしまうオタクの精神性は他人事ではありませんでした。こんな子がいたら好きになってしまう。

 

「カトレアの真実」

ある女が、カトレアの入れ墨をした男について語る。彼の正体とは……。

アダルティな話でした。正しい意見の中では生きていけない彼女が悲しかったです。共感できてしまう狂気であるだけやるせないです。

 

「お夏 清十郎」

意識だけを時間遡行して過去の作品を見る舞の家元。彼女には探しているものがあった。

映画のような美しい描写に、壮大な設定のラブストーリー。夢現の世界でした。

 

「ブルー・フライト」

試験管ベイビーに与えられたかりそめの親。アヤは親に従って飛行士になろうとするが……。

親がペガサスの置物という設定に驚きました。そこから生まれる葛藤が、物語を作っていくのが面白いです。

 

「月かげの古謡」

森に宝が眠っていると聞いてやってきた王子。そこで出会った女性は、姫君の婚姻相手を探すためにそこにいるという。

これはほとんどファンタジーな話。昔話のような懐かしさがあり、情景の美しさも素晴らしかったです。

 

まとめ

どの作品も面白く、当たりしかない短編集でした。

こんなに打率がいいのは久しぶりです。ぜひ他の作品も読んでみたいですね。

そばかすのフィギュア

そばかすのフィギュア

 
永遠の森  博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

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