岩波少年文庫は、だいたいの図書館にあるのでとっつきやすいですよね。買うとしてもそれほど高くないし。
書籍概要
グロデスクなものから幽霊者まで、短編ホラー小説を子ども向けに翻訳・編集したアンソロジー。英米編に続くフランス編。
湿度高めのホラーアンソロジー
さらっと不倫ものが多いのはやはりフランスだからでしょうか。
英米編に比べると、じっとし湿度の高そうな作品が多かった気がします。ときどき思い出して、うわあとなる作品たちでした。
各話感想
「青ひげ」シャルル・ペロー
「青ひげ」と呼ばれる男に嫁いだ娘の運命は。
ペローが再話した民話をさらにホラー風に手を加えています。原作を読んだときも思いましたが、スプラッタ映画になりそうなストーリーですね。
「コーヒー沸かし」テオフィル・ゴーティエ
家の絵画が動き出し、舞踏会を初めて……。
怖いというよりユーモラスな話でした。コーヒー沸かしが踊っているところを想像するとちょっとかわいいです。
「幽霊」ギ・ド・モーパッサン
ある男が語る、幽霊事件とは……。
わからないまま終わってしまう意味深な話。消えたあの人はどこに行ってしまったんでしょうか。
「沖の少女」ジュール・シュぺルヴィエル
どこかの街でひとりきりで暮らす少女。彼女の正体は……。
ホラーとはちょっと違いますが、少女の立場になると結構怖い話です。幻想的で不思議な小説です。
「最初の舞踏会」レオノラ・カリントン
ハイエナと友達の少女は、初めての舞踏会に代わりに出てもらうこととなる。
ホラーというよりもグロデスクなナンセンス小説という感じです。好きな人はすごく好きそう。
「消えたオノレ・シュブラック」ギヨーム・アポリネール
姿を消す能力のある男。逃げ回っていた彼の結末とは……。
すこしふしぎのSFっぽい話でした。結末が秀逸です。
「壁抜け男」マルセル・エーメ
壁を抜ける能力を得た男の破滅を描く。
確かあらすじだけ読んだことあるんですが、実際にはこういう話だったんですね。普通の人が破滅していく姿は怖いです。
「空き家」モーリス・ルヴェル
空き家に空き巣に入った泥棒が見たものは……。
衝撃的な話ではないですが、空き巣に入った男の気持ちを考えるとぞくっとします。この展開嫌ですね。
「心優しい恋人」アルフォンス・アレー
寒がっている恋人に男がある行動に出る。
グロデスクだけれどなんだか面白くなってくる不思議な話でした。痛そうな描写が苦手なので自分のお腹も痛くなってきますが。
「恋愛結婚」エミール・ゾラ
前の夫を殺して再婚した夫婦の破滅。
お互いを疑い狂気にとらわれていく姿が幽霊よりおぞましいです。人間が一番怖いタイプの小説です。
「怪事件」モーリス・ルブラン
怖い話をせがまれた男が語ったある事件とは……。
あれだけ怖がらせておいて、人を食ったようなエンディングで締めるのが好きです。
「大いなる謎」アンドレ・ド・ロルド
毎晩死んだ妻が現れると主張する男。主人公はその謎を暴こうとする。
終わったかと思いきやもう一段オチがありました。妻を待っていた男性がちょっとかわいそう。
「トト」ポワロー・ナルスジャック
兄弟のの面倒を見させられている少年は、ある悪だくみを思いつく。
「トト(しらみ)」というニックネームがミスリードだったのかと。なかなかブラックな話でした。
「復讐」ジャン・レイ
父親を殺し地下に埋めた男。彼は謎の音に悩まされるようになる。
一番ホラーらしいホラーでした。何の救いもないところが逆に潔いです。コンパクトにまとめた美を感じます。
「イールの女神像」プロスペル・メリメ
ある金持ちが入手した素晴らしい女神像。それは奇妙な事件を起こした。
女神像のまがまがしい表情が脳裏に浮かんでくるようでした。女神像が美しいこそこの話は映えるんでしょうね。
まとめ
子どもだけでなく、大人にも海外小説に触れるきっかけになる本だと思います。
ドイツ編とか日本編とかも出してほしいです。お待ちしています。