ブックワームのひとりごと

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絵描きロボットは人間のために放浪する 菅浩江『プリズムの瞳』感想

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プリズムの瞳 (創元SF文庫)

 

あらすじ

何らかのプロフェッショナルになるために生まれてきたロボット、ピイ。しかし彼らは人間の反感を買い、流浪の絵描きに身をやつしている。ただ絵を描くだけのピイたちと、彼らとすれ違った人間たちを描く連作短編。

 

心のないロボットと心のある交流

この作品に出てくるロボット、ピイには心がありません。倫理やルールは持ち合わせていますが、それは人間にプログラムされたものであって本心ではないのです。

しかし、人間たちはその「心のなさ」に感情を丸裸にされてしまうのが面白いです。

 

各話感想

「レリクト・クリムゾン」

血を集めて絵を描いているピイ。それは血液のドナー探しも兼ねていて……。

あの人の恋人に対する複雑な感情が悲しかったです。この二人がお互いのことをまだ愛し合えるといいですね。

 

「クラウディ・グレイ」

無農薬農業を行っている地域にやってきたピイ。彼は謎の老人に出会う。

メインキャラより、憎悪にとらわれている被害者の人たちにやりきれなさを感じました。どうにもならないなあ。

 

ミッドナイト・ブルー

夜な夜な公園へ出歩く不良少年たち。ピイの持っている特殊な電子鍵が奪えるかもしれないと思い……。

不良少年の描き方があんまりピンとこなかったです。あの世代独特の不安定さを感じないというか。

 

「シュガー・ピンク」

美しい女性は、抽象画を描くピイに「自分を描いてほしい」と話す。

美しさにこだわってしまう悲哀と、その価値を相対化してしまうオチが面白かったです。この本の中で一番好きです。

 

「メモラブル・シルバー」

老人ホームで暮らしているピイを破壊しようとやってきた介護士は……。

つなぎの話という感じであんまりオチがなかったです。年寄りの説教エンドだし。

 

ミラーリング・ブラック」

ピイを虐待させて楽しむ店を経営している男は、ピイの部品がすり替わっていることに気づく。

アウトローの人の描き方があまり上手くないなあと感じてしまいます。どこか白々しいです。

 

「エバー・グリーン」

良心の愛情を奪われたことから、ピイを嫌悪する男は、ピイのプロトタイプを壊そうと画策する。

変わるものの悲しみと、変わらないものの悲しみの対比が寂しいです。

 

「トワイライト・パープル」

感情を持つロボットフィーと交流した記憶がある女性は、ピイを見つけて彼に感情の練習をさせようとする。

感情を持たないゆえに、心の奥を見透かしてしまうピイは恐ろしいです。

 

「サティスファイド・クリア」

ピイを作り出した技術者である男は、プロジェクトの中心であった博士に「ピイのプロジェクトを終わらせてほしい」と頼む。

彼らが何のために稼働させられているのかがわかる真相編。ここまでたどり着くと、最初は理不尽に思えた部分も「なるほど」と思えます。

 

まとめ

全体としては面白かったけれど、細かい部分が気になってしまって楽しめない話もありました。

あんまり深く考えずに読んだ方がよかったのかもしれません。

プリズムの瞳 (創元SF文庫)

プリズムの瞳 (創元SF文庫)

 
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