書籍概要
ナチス・ドイツ政権下、ユダヤ人として強制収容所送りになったヴィクトール・フランクル。過酷な環境に苦しむ一方で、医師らしい冷静な視点で収容所を俯瞰する。アウシュビッツを生き延びた男性の手記。
冷静さをもって収容所を見つめた人
過酷な境遇を書きつつも、どこか冷静です。
その冷静さと観察眼が、恐ろしいくらいの極限状態で、著者の正気を保たせたのだろうなと思います。
観察によって力を保ち続けていた著者は、空想や内面世界に重きを置く人が、その力によって心を保っていることに気づきます。
怖い本というイメージがあるかもしれないけれど、それだけではないんですよね。困難なときに存在する希望の話でもあります。
だからあまり構えずに、読んでほしい本です。
収容所を出て麦を踏んだ男
しかし、一番印象的だったのは、著者が収容所を出たときのエピソードです。
一人の仲間と私は、われわれが少し前に解放された収容所に向って、野原を横切って行った。すると突然われわれの前に麦の芽の出たばかりの畑があった。無意識的に私はそれを避けた。しかし彼は私の腕を捉え、自分と一緒にその真中を突切った。私は口ごもりながら若い芽を踏みにじるべきではないと彼に言った。すると彼は気を悪くした。彼の眼からは怒りのまなざしが燃え上った。そして私に怒鳴りつけた。「何を言うのだ! われわれの奪われたものは僅かなものだったのか? 他人はともかく……俺の妻も子供もガスで殺されたのだ! それなのにお前は俺がほんの少し麦藁を踏みつけるのを禁ずるのか!」(201~202P)
この男性の行動はまったく理屈にあってはいないんですが、感情としてはわかります。
でもこの感情を許してしまうと、世界は戦争に満ちてしまうので、危険なんですよね。平和にやっていくには、この感情を客観的に管理しないと……。
まとめ
久しぶりに読んだんですが、やっぱり興味深い本だなあと感じます。
また忘れたころに読み返したいですね。
- 作者: V.E.フランクル,霜山徳爾
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1985/01/23
- メディア: 単行本
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