ブックワームのひとりごと

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装丁はアートではなく広告だ―範乃秋晴『装丁室のおしごと 本の表情つくりませんか?』感想

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装幀室のおしごと。 ~本の表情つくりませんか?~ (メディアワークス文庫)

今日の更新は、範乃秋晴『装丁室のおしごと 本の表情つくりませんか?』です。

ライト文芸を読むシリーズで気になった本。

 

あらすじ

駆け出しの装丁家本河わらべは、会社の合併により巻島という男とペアになる。彼はベストセラーを連発する装丁家だったが、ゲラを読まないと公言していた。わらべはそんな巻島に反感を抱くのだが……。

 

好きな設定ではなかったけれど面白かった

「当たりのきつい男」って正直あまり好きな設定ではないんですが、そういうことが気にならないくらいさくさく読めました。

キャラクターの掛け合いがテンポがいいし、ストーリーもシンプルながら破綻が一切ありません。「ここはおかしいな」と引っかかるシーンがとても少ないです。作者の筆力を感じました。

「仕事の鬼のきつい男性と、甘ちゃんの新人女性」というテンプレを押さえつつ、きちんと個性も表現しているお仕事小説でした。

 

「装丁」がテーマでありながら、別におしゃれな装丁を作ることをメインにしていないことも面白かったです。あくまで装丁は売らなければ意味がない、という揺るがぬ価値観を持つ巻島は、売るためならダサい装丁も辞しません。

読み手としてはストーリーに合った、きっちりした装丁が見たいと思うんですが、売るためにはそうもいかない。私が「ダサいな……」と思っている装丁でも、考えに考えを重ねて売っているんだな、と思いました。

装丁は作品ではなく広告である、という巻島のスタンスは、ある意味ストイックで、職人気質なんですよね。そこが素敵でした。

でもこれからもダサい装丁はダサいって言うと思う……。ダサい装丁が増えてもむなしいだけなので。

 

ただ、無地の本を、「デザインではない」と言うのはちょっと謎でした。東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン (新潮文庫)なんかはこれはこれで洗練されたデザインだと思うんですが。

実在のデザインが引き合いに出されているのに、ここだけ言及がないのはちょっと違和感がありましたね。

 

まとめ

好きな設定ではないんですが、それでも安定して読める筆力を感じました。

テンプレをきっちり自分のものにしている作品だと思います。

 装丁に興味がある人にはおすすめです。