ブックワームのひとりごと

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ひとりの男の性欲が生んだ美しい地獄―ドット・ハチソン『蝶のいた庭』感想

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蝶のいた庭 (創元推理文庫)

今日の更新は、ドット・ハチソン『蝶のいた庭』です。

 

あらすじ

背中に蝶の入れ墨を入れた少女たちが保護された。そのひとりであるマヤという少女は、警察に事情を聴かれるが、巧みな話術で何度も警察官たちをけむに巻く。根気強く彼女の語りを聞く中で、おぞましい庭園の姿が浮かび上がってくる。

 

 

美しいけれど、耽美じゃない

いや~面白かったです。結構長い本ですが、長いと思わないくらい引き込まれました。

 

背中に蝶の羽が描かれた少女たちが暮らす、美しい庭園。ガラスケースに並べられた彼女らの「標本」。ひたすら若さを消費する、耽美な世界。

一方で、21歳になると必ず殺される蝶たちの「死への恐怖」は生々しく真に迫っていて、これが美しいだけの話ではないとしっかり示してくれます。美しさに浸ることを肯定していない、耽美の概念を打ち破っている話でした。

どんなに美しく、どんなに愛情のあるふりをしようと、この世界は一人の男の歪んだ性欲によって作られた地獄なんですよね。

私は女の子がひどい目に遭う話が好きなんですが、フィクションであってもそういう欲求があることに罪悪感を覚えさせられました。見透かされている気がします。

 

<庭師>と呼ばれる庭園のボスもめちゃくちゃ怖かったです。何が怖いって、この人の中ではこの<庭園>を作ることに関してまったく倫理観の呵責がなさそうなところです。むしろ自分は蝶たちに優しくしているとおもっている節があります。

彼にとっては筋が通っている行動なので、何の疑問も持たない。

蝶の少女たちが仲良くしていると喜んだり、息子に蝶を抱かせたりしているところがとんでもなくえぐい。

 

そんな中で、子持ちの警察官が、ちゃんとマヤを含めた少女たちのことを心から心配していくれたことが救いでした。

庭園を脱出しても地獄には変わりがないですが、それでも彼女らには将来があり、守るべき自分の心がある。それが光が差し込むような希望に思えました。

それを思うと、タイトルが直訳である「蝶の庭」ではなく、『蝶の「いた」庭』と過去形になっているのがセンスがいいですね。もう、終わったことなんですね。

 

まとめ

めちゃくちゃ怖かったけれど、すごく面白かったです。内容的にはおすすめしがたいんですけれども、サスペンスが好きなら読んでほしいです。

 怖い話が平気で、女の子たちが戦う話が好きな人はぜひ。

蝶のいた庭 (創元推理文庫)

蝶のいた庭 (創元推理文庫)