今日の更新は、マリーナ・レヴィツカ『おっぱいとトラクター』です。
『トラクターの世界史』に引用されていて興味を持ちました。
あらすじ
84歳の父は、35歳のウクライナ人の美女と結婚すると言ってきた。どう考えても財産目当ての結婚に、仲の悪いふたりの娘は大反対。共同戦線を張り、父の結婚を阻止することに。一方で、父と母にもソビエト・ロシアが支配するウクライナから逃げのびてきた過去があった。
露悪的だけど優しいコメディ
財産狙いの移民の女性が家族をはちゃめちゃにする……という、ひとつ間違えば炎上しかねない題材を、神業で調理していっている作品でした。
その理由は、登場人物が全員愚かだからです! 巨乳美女にほいほい騙される父はもちろん、財産をめぐって争う姉妹。弁護士や間男などの脇役に至るまでだめな雰囲気が漂います。
そして、そんな人間の業を皮肉を込めて描きながらも、そのまなざしはどこか優しいです。なぜなら、「そういう風にしか生きられなかった」という経緯も含めて書いているからです。
過酷な収容所を生き延びた姉ヴェーラは人を疑い、心の裏を読んで生きていますし、賢いけれどどこか抜けている妹のナジェジェダは、戦後の生まれで、左派の市民運動の薫陶を受けて生きていました。おそらく日本で言うところの団塊の世代。10年の年の差がふたりを引き裂き、喧嘩をさせているのです。
露悪的で意地悪だけれど、どこか優しい、身につまされるコメディでした。
下ネタ全開なので人は選ぶだろうけれど、コメディなのでとっつきやすいし、ウクライナの過酷な歴史を知るきっかけにもなります。もっといろいろな人に読まれてほしいです。
しかし、『おっぱいとトラクター』というタイトルで損をしていますねえ。
どう考えてもこの日本語タイトルは改悪だと思うんだけれど、確かに原題からは想像がつかない話だからなあ。翻訳って難しいですね。
まとめ
めちゃくちゃ面白かったです。移民国家イギリスと、そこで暮らす移民たちに興味がある人はおすすめです。
ウクライナの歴史に興味がある人にもぜひ。笑って身につまされる本でした。
- 作者: マリーナ・レヴィツカ,青木純子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2010/08/20
- メディア: ペーパーバック
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