今日の更新は、宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』です。
あらすじ・書籍概要
アラルスタンの戦争で両親を失った日系少女、ナツキ。彼女は後宮(事実上の学校施設)に入り、そこで学んでいた。しかし現大統領が暗殺され、議員たちは逃げ出した。後宮の少女たちは自ら政権を取り、アラルスタンのかじ取りをしていく……。
完全になろう小説の文脈
こんなこと言ったら怒られるかもしれないけれど、完全にこれなろう小説の文脈ですよね。
ナツキが日系であることにストーリー上の意味があまりないことといい、作品のそこかしこに見られるご都合主義といい、「やりたくないのに国防大臣になっちゃった。やれやれ……」という感じといい、なろうで連載していてもあまり違和感がありません。
そのようなわざとらしいほどの展開でありながら、この作品は面白い。それはキャラクターが魅力的で、ぐいぐい物語を引っ張っていってくれるからだと思います。
政権を担う少女たちは故国から逃げ出してきた訳ありの子たちばかりで、そんな彼女らがアラルスタンという未熟な国をなんとか立て直そうと紛争する姿は、見ていて応援したくなります。
政治と戦争にまみれた世界で確かにある、少女たちのシスターフッド。過激でどこか懐かしく、ほほえましくも悲しかったです。
それからこの作品の助演男優賞は何といっても吟遊詩人で武器商人のイーゴリですね。彼は後宮の中で暗躍し、協力したり敵対したりします。
芝居がかった長い口上に潜む虚無が恐ろしいです。そしてナツキとイーゴリが一対一で向かい合うシーンは本当にはらはらしました。
リアリティのある架空歴史ものを読みたいと思っている人には向かないけれど、作中で少女たちが上演する演劇のように、虚実織り交ぜていくところが面白かったです。
それこそこの物語は、少女たちのアイデンティティに関する「叙事詩」なのかもしれません。
まとめ
思った以上にエンタメ小説なので、難しく考えずに読んで見るのがいいと思います。
戦争と政治にかける青春を見たい人にはぜひ。