今日の更新は、映画『三度目の殺人』の感想です。
あらすじ
殺人の前科がある三隅は、自分の勤める工場の社長を殺した。弁護士の重盛は、彼を担当することになる。だが、三隅の供述は二転三転し、重盛はそれに振り回されていく。やがて、意外な事実が明らかに……。
見たいものを見る人々の愚かしさ
二転三転するストーリー、信用ならない登場人物たち、混迷を極めていく弁護団の方針、と藪の中を歩くような映画です。はっきりきっぱりストーリーがある作品ではないため、視聴者も混乱しながら見ることになります。
作中の終盤、重盛が故事「群盲象を評す」について話すシーンがあります。
この話には数人の盲人(または暗闇の中の男達)が登場する。盲人達は、それぞれゾウの鼻や牙など別々の一部分だけを触り、その感想について語り合う。しかし触った部位により感想が異なり、それぞれが自分が正しいと主張して対立が深まる。しかし何らかの理由でそれが同じ物の別の部分であると気づき、対立が解消する、というもの。
(Wikipedia「群盲象を評す」より
この故事の通り、見たいものを見る人間の愚かしさ、自分の視点でしかものを考えられない怖さ、自分の納得のいく物語を勝手に作り出してしまう悪い意味での想像力というものをまざまざと見せつけてくる作品でした。
すっきり終わる作品ではないけれど、すっきり終わらないことに意味がある結末でした。
大筋が面白いのは言わずもがななんですが、細かいディテールが素晴らしいです。妻と離婚調停中の重盛が別居している娘を迎えに行くシーンで、娘がどこか他人事で実際に反省しているのかいないのかという振る舞いをします。そのしぐさや空気感がリアルで、見ているこっちが気まずくなるほどです。
このシーンは容疑者の信用ならない供述に伏線としてかかっているんだろうけれど、登場人物にはまったくそんなことは関係なく、目の前にあることに翻弄されていくところも生々しいです。
見る人は物語を俯瞰して「こういう意味があったのでは」と思えるけれど、登場人物にはできごとの意味なんてわからない。そういう視聴者と登場人物の視点の違いに自覚的な作品です。
『三度目の殺人』のまとめ
「人の心がわからない」とは実際にはどういうことか掘り下げていくような作品でした。
楽しい作品ではないですが、しみじみと印象に残るエンディングは見られてよかったです。