今日の更新は、小野不由美『白銀の墟 玄の月』三巻と四巻の感想です。
核心的なネタバレはしていないんですが、気になる人はブラウザバックしてください。
前回の記事はこちら。
あらすじ・書籍概要
白圭宮にて泰麒は、王宮の奥に引きこもっている阿選と対峙する。彼の真意とはいったい……。一方驍宗を探す李斎は、荒民への聞き込み、道士や僧侶の協力を経て驍宗の居場所に目星をつけた。その場所とは……。
長い長い旅の果てに居場所を勝ち取った
十二国記の泰麒の物語は三重の意味で「行きて帰りし物語」です。
「行きて帰りし物語」というのは、異世界(またはそれに準じる場所)に行って帰ってくる物語の形式のことです、『浦島太郎』や『はてしない物語』がそれに当たります。
胎果として流れ、十二国記世界に帰ってきたのがひとつ目。「人」として十二国記世界に流れ着き、「人」として蓬莱に帰ってきたのがふたつ目。鳴蝕を起こして王宮から蓬莱へ逃げ出し、諸国の支援を受け王宮に戻ってきたのが三つ目。
思えばどこへ行っても泰麒は異質で、十二国記世界にあっては麒麟らしくない自分に悩み、蓬莱にあっては普通の人間ではない自分に悩みます。
ところがこの『白銀の墟 玄の月』では泰麒は自ら自分の居場所、つまりは驍宗のいる王宮を取り戻そうと大立ち回りを演じました。嘘を操り、人を傷つけてでもそれを成し遂げようと奔走したのです。
何度も「行きて帰りし物語」を繰り返した泰麒が、己の意思で居場所を勝ち取るシーンを見たとき、ああ本当に彼の物語はここで完成したんだなと思いました。
十二国記をここまで読んできてよかった……!!
そしてその戦いは、泰麒の今までの経験に裏付けられたものでした。『魔性の子』で広瀬を置いていった記憶。景麒に麒麟という生き物を教わった日々。そして驍宗にひざまずいて、王に選んだあの瞬間。
ページをめくるたびに、今までの泰麒の旅路が浮かび上がってきて苦しいほどでした。すべては長い長い旅の果てにたどり着いた結果なんですよね。サイコーだよ!! ありがとう!!
泰麒の物語について熱く語ってしまったんですが、他の部分ももちろん面白かったです! いつも諦めない李斎はかっこよかったし、戴の民たちが力を合わせ始める終盤は今まで蒔いてきた種が一気に芽吹いたようでうれしかったです。あと十二国記には珍しいちょっとしたロマンスも愛しかったです。
本当に最高でした。何年も待たされた恨みつらみが全部ふっとんでしまいましたよ……。本当にありがとう。私の青春が浄化された気分です。
『白銀の墟 玄の月』まとめ
あ―楽しかった! と心から言える読書でした。しばらくこの余韻に浸っていたいから会社に行きたくないです。
でも泰麒が王宮に戻ったように、私も私の世界に戻って頑張ります。