今日の更新は、斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』です。
いつかのミステリ電子書籍セールで買ったものです。
あらすじ・概要
人気小説家、 遥川悠真が失踪した。それには、ある少女がかかわっていた。彼女の名前は暮居梓。遥川悠真に拾われ、共生生活を送っていたが、彼女がスランプに落ち込む彼にやったことが、ふたりの関係を完膚なきまでに変えてしまう。
見出し
『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で、「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んでほしかった』
という一文から始まるこの作品。端的に言うと闇のおにロリでした。
おにロリ系の作品、年の差によるタブーには突っ込まないことが多いんですが、この作品は「大人の男が小学生女子を家に入れる」ということがきちんと重いこととして扱われています。そしてそれゆえに、ふたりの関係性の救いのなさが強調されています。
ただ、親から虐待を受け、頼れる大人がいなかった梓には、遥川しか頼れるものがいませんでした。そして、梓は崇拝するレベルで遥川の作品が好きだったのです。このふたつの要因によって、梓は不健全な関係から抜け出せなくなってしまいます。
遥川自身も、自分を純粋に求めてくれる人を必要としてしまいました。かくしてふたりの関係はゆっくりと崩壊していくことになります。
と、面白かったんですけれど、ひとつだけもやもやしていることがあります。それは主人公ふたりが一切読者のことを考えていないことです。
遥川悠真のことを純粋に応援していた読者は、彼の著作を見るたびにこの事件を思い出して、やるせない気持ちになるのでしょう。そしていなくなった人間に憎悪はぶつけられません。
私は本読みだから、つい読者の気持ちになってしまいます。その辺を、作品一の常識人である守屋にはフォローしてほしかったです。
『私が大好きな小説家を殺すまで』まとめ
決して楽しい小説ではないですが、人間の心の闇に惹かれてしまうタイプの人にはいい作品だと思います。
何とかならなかったのか、と考えながら電子書籍をめくり続けた一冊でした。