今日の更新は、長月遥『花冠の王国の花嫌い姫2 ガーベラの約束』です。
何で表紙には巻数ついてないのにAmazonの書籍タイトルにはついてるんだろう……わかりやすくていいですけれど。
あらすじ・概要
重度の花粉症ゆえに花の少ない国、ラハ・ラドマのイスカ王子に嫁いだ姫君フローレンス。そこにイスカの弟セクトが帰国してくる。彼は正教会の聖職者たちを連れていた。セクトはラハ・ラドマの現状を憂いているようだが、聖職者たちと合わせてどうも様子がおかしく……。
共感能力の低いヒロインと人徳者のヒーロー
面白いのがフローレンスの「共感能力が低い」という設定です。仲間が死にそうになっていても冷静に対処するし、あまり気の利いたことが言えないので恋愛ごとでは微妙にすれ違う。
こういうキャラクターは乙女向けの作品で非常に珍しいですね。だいたいヒロインって、「腕力や権力はないけれどコミュニケーション力や共感力はある」という設定にされて、シンパシーで問題を乗り切っていくところがあります。それをばっさり捨てて、ひたすら行動で問題を解決していくところがロジカルで好きです。
◎ここからネタバレ◎
セクト、本当にいい子なんだろうけれど、ハイヴィス(の皮をかぶったカフィエズ)に騙されて洗脳されて……といいところがなかったです。でもそういう単純と言っていいほどの純真さがラハ・ラドマの人々の魅力でもあるんでしょうね。
その反面、ラハ・ラドマの「傭兵国家」という血なまぐさい過去も明かされます。ヤクを使って体を強化していたというのは想像以上でしたよ。ティーンも読む小説なのでマイルドにしているとはいえ、劇薬っぽいしな……。
こういうその土地に住む人間の多面性を明かしてくれるのは、異世界ファンタジーらしくて好きです。文化や歴史、人の性質も含めて国家ですから。
警戒心のないイスカやセクトのために体を張るフローレンスですが、彼女もしっかりイスカに惚れているところが安心できます。
「楽しんでくれているなら嬉しく思う。貴方の笑みはいつも上品で美しいが――今は、とても可愛い」
(中略)
いつも彼に見せるよう心かけている笑い方は、心身に染みついた仮面の延長線上にあるもの。美しく見えるように計算された、技術が伴った微笑だ。
それが認められていることも嬉しいが、イスカはフローレンスが無防備に浮かべた笑みを、『いつもと違う』と気付いてくれたのだ。
いやそんなん惚れてまうやろ……。というイスカの人格者っぷり、相手を思う配慮がそこかしこに見られます。だからこそ、フローレンスも「イスカのために」と思うのでしょう。
若干共感能力に難のあるフローレンスと、人の心を察し優しくできるイスカ。このふたりはずっといいコンビでいてほしいです。
終盤の展開はちょっとごちゃごちゃしていて集中しにくいところがありました。居場所がころころ変わったので「今どこにいるんだ」と混乱しました。