ブックワームのひとりごと

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故郷に帰ってきたミュージシャンが自分自身を救う―岬鷺宮『空の青さを知る人よ Alternative Molodies』

空の青さを知る人よ Alternative Melodies (電撃文庫)

今日の更新は、岬鷺宮『空の青さを知る人よ Alternative Molodies』です。

映画の感想はこちら。

honkuimusi.hatenablog.com

 

 

あらすじ・概要

秩父で暮らす少年「しんの」は、東京に出てミュージシャンを目指すはずだった。しかししんのが、お堂の中で目覚めると、そこは十三年後の世界で……。一方で演歌歌手のバックミュージシャンである「慎之介」は、イベントに出演するため秩父に帰ってきた。そこにはかつて恋をした女性あかりと、その妹あおいがいた。

 

男から見た『空の青さを知る人よ』

映画「空の青さを知る人よ」がアラサー女性視点だったのに対して、このノベライズはアラサー男性視点。映画ではあいまいだった慎之介の心の動きが、きっちり描かれています。

意外だったのが、慎之介がかなり倫理観とプロ意識の強い男だったことです。映画では18歳のあおいから見た慎之介だったからこそすごく嫌でだめな男に見えたんですが、慎之介なりに「こうすべき」という価値観に基づいて行動していたことがわかります。

「映画で説明すべき」という意見も見かけたけれど、私はノベライズで明かしてよかったと思います。映画の慎之介は誤解されることに意味があったと思うんですよね。彼が本当は悪い人間ではないことは、映画でも示されていましたし。

 

◎ここからネタバレ◎

 

故郷に帰ってきた慎之介。ホテルに送ってくれたあかねに迫ってけんもほろろにあしらわれ、キャバクラで自己を大きく語ってみたり……とみっともないところを露呈します。

自分が選ばなかった選択肢にぐずぐず未練を感じ、それと同時に「何を選んでもうまくいかなかったんじゃないか?」と自虐に走ってしまう。すっごくだめだけれど、共感できるだめさです。

あの日の俺はいないし、あかねだっていない。あるのはただ、たくさんの時間をかけて、結局どこにも届かなかったという事実だけ――。

(P167)

でも、同時に、プロとして素人を交えたステージをきっちり遂行しようと努力し、高校生にアプローチされてどうにか家に帰し……と、大人としてまともなところもあります。

慎之介の二面性は、人間味があってリアルです。だめだけど、人としての一線は超えていない。そこがまだ可愛げがあります。

 

そんな慎之介を救うのが、過去の慎之介である「しんの」だというのがまたいいんですよね。過去の恋人であるあかねでも、その妹であるあおいでもなく、音楽と好きな女を大切にする自分自身が自分を支えてくれる。そのオチがたまらなくかっこいいです。

 

『空の青さを知る人よ Alternative Molodies』はこんな人におすすめ

映画『空の青さを知る人よ』が楽しめた人にはおすすめ。それからだめ男に性癖が刺激される人、何かしら夢を諦めたことがある人には響くのではないでしょうか。

逆に映画を知らない人にはちょっとわかりにくい作品かもしれません。

 

空の青さを知る人よ Alternative Melodies (電撃文庫)

空の青さを知る人よ Alternative Melodies (電撃文庫)

  • 作者:岬 鷺宮
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 文庫
 
小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)

小説 空の青さを知る人よ (角川文庫)

  • 作者:額賀 澪
  • 発売日: 2019/08/23
  • メディア: 文庫