今日の更新は、矢部嵩『〔少女庭国〕』です。早川書房の電子書籍セールで買いました。
あらすじ・概要
中学校の卒業式に向かっていたはずの羊歯子は立方体の部屋の中で目覚めた。部屋には「下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ」という張り紙がしてあった。羊歯子がドアを開けるたびに、卒業生が増えていく。無限に続く部屋で少女たちは何をするのか?
こんな人におすすめ
- 普通の小説に飽きている人
- ありえない設定にロマンを感じる人
- わけのわからないことを楽しめる人
「面白い」と言うと品性を疑われそう
面白いんですけど「面白い」と言うと品性を疑われそうな作品です。
デスゲームっぽい展開は序章に過ぎず、読み進めるほどに狂気的な世界観が広がり続けていきます。
伏線もオチも構成もあってないようなもので、「小説」として評価するといまいちです。しかし、「人に言えない秘密の妄想ノートを覗き見てしまったような本」としては大正解100点満点の作品と言えます。文章もだらだらしていてあまり上手いとはいえませんが、この世界観には合っています。
本当におすすめしがたい作品なんですが、普通の小説に飽きた人なら楽しめると思います。
◎ここからネタバレ◎
ドアを開けても開けても出てくる少女たち。壁の中には食料もなく、水もない。このままでは全員飢え死にしてしまう、ということで食人が始まり、それを継続することで食人をベースとした文化が始まり、やがて奴隷制が生まれ……。うん説明しているだけでわけがわからないですね。イメージするとグロいけれど、描写が淡々としているのでそれほど怖くありません。
また、登場するのは少女だけなので、一切の生殖は行われず、人間が増えるのはドアを開けたときだけです。どこまで行っても同世代しかいないいびつさ、同世代のまま年を取る奇妙さにまた強烈な違和感を覚えます。
少女たちはどこまでも続く部屋の中で殺しあっては死に、繁栄しては衰退します。その情景をメタな視点から見ている読者の私たち、という構図がめちゃくちゃタチ悪いです。
虫の足をもいで苦しんでいるところを見ているような作品です。本当に悪趣味。
こう述べていると悪口を言っているように見えるかもしれませんが、確かに面白いんですよね。小説としてやってはいけないことをじゃんじゃんやっているような話なのに、それでも面白い。
面白いと思うことに若干罪悪感を持ちながらこの感想を書きました。正真正銘本物の悪趣味。