あらすじ・概要
舞台の演出家であり作家でもある鴻上尚史。舞台人として数々の人間関係に揉まれてきた彼が、送られてくる人生相談に答える。友人との関係、夫婦の関係、夢を追いかけること。著者の経験から語られる、社会を生き抜くポイントとは。
こんな人におすすめ
- 人間関係に悩んでいる人
- 心の中のもやもやを言語化したい人
- 演劇に興味がある人
回答は奇をてらったものではないけど理由付けが上手い
面白いのだけれど、どう面白いか説明するのが難しい本です。
なぜなら著者はそれほど特徴的な回答をしているわけではないからです。親と折り合いがつかない女性には家を出ることを勧め、友人と絶交された人にはその人のことは忘れろと言う。結論だけ抜き出してしまえば月並みです。
しかしその結論に至るまでの、「なぜ自分はそうすることを勧めるのか」という理由付けがしっかりしていて面白いんですよね。演劇の世界で生きてきた自分の経験を踏まえて、質問者の疑問や葛藤を解体していき、整理して「できること」を考えます。その解体の作業が心地よかったです。
個人的に好きな回は相談24の「高校時代の友人A子から絶交されました。A子のためにと言ってきたことが恨まれていたのです」です。質問者は友人に親身になってアドバイスしているつもりが、友人はそう取らず、「いつも上から目線」と思われていた話です。
質問文を読んだだけで「うわー」と思いましたね。相手のことを考えない親切は、意地悪に等しくなってしまう。質問者に悪意がないだけに、諭すのは難しい話です。
著者はそんな質問者を一方的に責めないよう気をつけながら、「上から目線」と思われてしまう理由について解き明かしていきます。
その説明が丁寧で、読んでいる私もすっきりしました。考えていることが言語化されるだけで心が落ち着きます。
最後に「あとがきにかえて」からこの本を象徴する文章を引用しておきます。
ツイッターでは『ほがらか人生相談』の回答を読んで「私だったらこんな人とは絶交」とか「こんな奴とは一瞬で別れる」とか「俺なら。こいつとは口きかない」とか書いている人がいます。
そんなことができたら、どんなに簡単かと、演劇の現場を思ってため息が出るのです。
プロの現場は、どんなに嫌な人がいても、どんなに対立しても、どんなに怒っても、幕を開けないといけません。(P248)
私も人間関係で面倒になるとすぐ逃げだすタイプなので耳が痛いですね。でも、どうにかこうにか、折り合いをつけていくしかない。そのヒントが得られる本でした。