ブックワームのひとりごと

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「足りない」中学生たちの優しく痛い青春―阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』

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ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックスエクストラもっと!)

今日の更新は、阿部共実『ちーちゃんはちょっと足りない』です。

 

あらすじ・概要

中学生のちーちゃんは、おバカだけれど友人と楽しく暮らしている。友人のひとり、ナツもちーちゃんが好きだ。しかし、女子バスケ部が顧問の誕生日プレゼントを買うために集めていたお金がなくなった。その事件をきっかけにナツとちーちゃんの関係は狂い始める。

 

「足りなかった」のは実は彼女だった

狙って書いているかはわからないんだけれど、この作品の「ちーちゃん」は「知的ボーダー」のような印象を受けました。知的ボーダーとは、IQは低いがギリギリ知的障害と認定されない人のこと。普通に雑談はできますが、日常生活で少しでも難しいことがあると、つまずいてしまうことが多いです。

主人公のちーちゃんは頭はよくないものの天真爛漫で、周りの友人は彼女を大切に思っています。その優しさが心地よかったです。

しかし心地いいだけで終わらないのがこの作品。思春期特有の「愚かさ」が、友情の歯車を狂わせ始めます。

 

◎ここからネタバレ◎

 

ちーちゃんはお金欲しさに女子バスケ部のお金を盗んでしまい、千円をナツに分け与えます。そのお金でほしかったリボンを買ってしまったナツですが、次の日から罪悪感に苛まれることになります。

この、罪悪感を感じぐるぐると悩むシーンの描写が、ダークな演出を交えながらのおどろおどろしいものでした。だからこそナツに感情移入してしまって苦しくなりました。

多かれ少なかれ人間には悪いことをして罪悪感に苦しんだことがあるでしょう。このシーンはすごく普遍的なテーマですよね。自分の過去含めていろいろ思い出してしまってとてもつらいですが、だからこそ読みごたえがありました。

 また、ナツは生まれ育った家が貧乏で、好きなものを自由に買えなかった今までの苦しみがあります。その劣等感が罪悪感とないまぜになって、本当につらそうでした。

タイトルでは「ちーちゃんが」足りないということになっていますが、本当に「足りない」のはナツだった。お金が足りない、考えが足りない、知性が足りない、倫理が足りない。でもそこを踏まえたうえで、少し希望のある結末を迎えてくれてほっとしました。

これからナツは盗んだお金を使ってしまったことで孤立するかもしれません。それでも、ちーちゃんとの友情は誰に否定されることのない本物なのでしょう。苦いけれどさわやかな読み心地でした。