今日の更新は、宮本太郎『生活保障 排除しない社会へ』です。
あらすじ・概要
男性を主な労働力とし、長期雇用や女性の家事労働によって家庭を支えるのが日本の福祉モデルだった。しかしながら、雇用の崩壊によって過去の福祉システムは使えなくなっている。雇用と社会保障の関係を考えながら、すべての人への「生活保障」をいかにしてなしとげていくかを語る本。
こんな人におすすめ
- 十年前と今日の福祉を比べてみたい人
- 福祉政策に興味がある人
- 雇用と福祉の関係について興味がある人
10年前と問題があまり変わってなくね?
10年前の本ではありますが、今でも十分面白く読めます。というより世の中が10年前からさほど変わっていないことに戦慄しますね。
筆者の主な主張は、雇用と社会保障を両輪として考えること。
雇用状態から「失業」「教育」「家族」「体とこころの弱まり、退職」に向けてシームレスな状態にするために、病気や障害のある人が就職できるように支援し、保育所や家事代行サービスを行い、大人になっても学べる時間を持つことが大事だと説きます。
それから、日本がどのような政策を取るべきか、海外の成功例や失敗例をもとに語っていきます。
私は福祉サービスを渡り歩いてきたので、これらの雇用支援サービスが現実にきちんとあることを知っています。でもそれが、アクセスしやすいかというとそうでもないんですよね。
私は親のすねをかじれたのでまだましな方なんですが、困窮した人間が「よーし職業訓練行こうかな」とはなりづらいんですよね。職業訓練には、給料が出ないので。その時点でそれなりに貯金のある人間しか参加できません。
10年前には就活していなかったのでどう変わったのかはわかりませんが、今も就労と就労していない状態には大きな壁があると思っています。まだまだ道は遠いですね。
この本の本題とはちょっとずれていますが、印象的な部分がありました。
人々が「生きる場」を失いつつあるという事態に対して、保守の立場をとる人のなかには(中略)社会保障や福祉は、家族や共同体のような「自然」な関係を歪め依存心を高めるので、役に立たないどころか有害であると主張することもある。
(中略)
保守主義とは本来、人々のつながりと秩序が失われていくことに対しての危機感に支えられた思想のはずであった。その限りで筆者は、保守主義の思想には学ぶべき点が多くあると考える。(中略)にもかかわらず、その種の単純な主張が多い現実を見ると、むしろあまりに危機感が欠落していると言いたくなる。
(P66)
確かに保守の人は婚外子差別を正当化するけれども、たとえば望まぬ妊娠をした女の子だって、正しい性知識があり、ろくでなしな男にひっかからない自尊心があり、自力で我が子を養える仕事があれば、「結婚のレール」に乗れたかもしれない。私は婚外子差別には反対ですが、賛成している方から見ても政策に一貫性がないと思います。
何にせよ守りたいもののためには身銭を切るべきだよなあ……。