今日の更新は、アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』です。
あらすじ・概要
15歳のアレックスは暴力、盗み、強姦など、破滅的な犯罪を繰り返していた。ある老女の家を襲ったときに当局に捕まり、謎のプログラムを受けさせられる。それは、アレックスのような犯罪者を犯罪を犯さないよう矯正するプログラムだった。アレックスは見せられた映像によって恐ろしい苦痛を受けるが……。
こんな人におすすめ
- 犯罪描写にときめいてしまう人
- 人間の尊厳について考えたい人
- それはともかく尊厳をめちゃくちゃにされる男に興奮する人
独特の世界観の中尊厳をめちゃくちゃにされる少年
この作品の特徴は、造語が多用されること。「ドルーグ(なかま)」「スコリー(少し)」「デボーチカ(女の子)」などなど。造語には日本語訳のルビが振られているため、覚えなくても読めます。
造語によって独特の雰囲気が醸し出されていますが、不思議と読みにくくはありません。おそらく、一人称の語り手であるアレックスの若者っぽい「言葉の雑さ」がいい感じに読みやすさに影響しているのでしょうね。
私は結構反社会的描写が好きなので、アレックスが次々に犯罪を犯す冒頭や、中盤のろくでもない動画を延々と無理やり見せられるシーンはわくわくしてしまいました。闇属性の人間としてはたまらないです。
尊厳をめちゃくちゃにされる男っていいよね!
◎ここからネタバレ◎
過酷な矯正を受けたのち、アレックスは家を失い、たまたま見かけた家の人に助けてもらいます。その家は反政府派の男が住んでいました。
この、反政府派のグループがかなり曲者で、アレックスを「政府から虐待された、かわいそうな若者」に仕立て上げようとします。この扱いはかなりえぐかったですね。
政府から与えられた「更生した少年」という役割から逃げ出そうとしても、新しい役割が待っている。悪趣味だけれど生々しい、自我をいたぶるような展開でした。
しかし最終章には納得のいかない部分がありました。アレックスは矯正された人格から元の人格に戻りますが、徐々に大人になるにつれて、暴力から距離を置き家庭を持とうとします。
解説を読んで作者が何を書きたかったのかは納得したけれど、主人公がやったことを思うとふんわりいい感じに終わるのは腹立たしいですね。
確かに現実世界でも、非行を繰り返したくせに家庭に入るとさらっと普通の人間のふりをする連中がいますけど……ありがちな矛盾とはいえ、ありがちだからこそ「えー!!」と幻滅しました。