「crystal-z Sai no Kawara」というラップ動画を見ました。
まずは何も読まずこの動画を見てほしい。
見ました? 見ましたよね?
絶対最後まで見てからスクロールしてください。
この作品は、序盤ではバンドマンが医学の道を志し、恋人の応援を受けながら医学部受験を繰り返すラップが歌われています。東京の医学部に落ち続けた主人公は、飛行機に乗って地方の医学部を受験しついに合格を勝ち取ります。
しかし曲が終わりかけたころ、あるニュースの音声が入ります。この曲の主人公……つまり作者は、「医学部が年齢によって不正に受験生を落としていた事件」の被害者だったのです。
突然そういう展開になるのではなく、サビにさりげなく大学名が入っていたり、ペーパー試験は受かっても面接で落ちまくっていたり、ちゃんと伏線は敷かれています。ミステリみたいな音楽だ……。
これを聞いたときもう衝撃でその日はなかなか寝付けなくなってしまいました。
なぜかってこの曲は「人生」が描かれている楽曲だからです。
あのとき、入試の不正に巻き込まれた人たちには、それぞれの人生があったはずです。親に塾代を捻出してもらった女子受験生も、遊ぶことをやめて何日も机にかじりついていた子も。そして、作者のように遅れて医学の道を志した人も。
私自身、あのニュースの表面しか見てこなかったのだと気づかされてしまいました。自分が恥ずかしいです。
差別は個人個人の人生に目を向けず、ただ「〇〇だから」という理由でそれを踏みにじります。「賽の河原」というタイトルは、石をひたすら積み上げても鬼に崩される、地獄のひとつから取ったものでしょう。すると鬼は作者を落とした医学部であり、また、それを許した社会でもあるのではないでしょうか。
ただ曲の最後では、タイトルに「再の河原」という漢字を当てはめています。これは希望のある演出であるとともに、作者の怒りでもあるのではないかなと思いました。
自分の幸せを、自分の勝ち取ったものを、理不尽な差別や不正で踏みにじられてなるものか、という強い感情。最後まで聞いてからリピート再生すると、作者の意地が聞こえてくるような気がします。
だからこそこの作品の曲調は優しいものでなければならなかったのだと思います。
私はあまりラップには詳しくないのですが、ひとりの人生を描いた音楽エッセイ、社会批判、怒りと救い、そういうものが詰め込まれた本当にすごい楽曲だと思います。
社会で保存して記録に残すべき作品です。