今日の更新は、来楽零『哀しみキメラ』です。
あらすじ・概要
塾のエレベーターで「モノ」に襲われ、その「モノ」と融合してしまった純たち四人の若者。強化された体、食べても治らない空腹。生きていくためには「モノ」を食らっていかなければならない。純たちは共同生活を送りながら、「モノ」を退治する生活をする。
価値観の違いゆえにすれ違うことに泣ける
主人公の純、元医学部志望で物静かな水藤、生き残ることに貪欲な十文字、紅一点で明るい彩佳。四人はモノを食らって変わっていく自らの体に戸惑いながら、生き残るために、人間らしい生活をするために尽力します。
キャラクターがすれ違いまくる作品なんですが、その原因が「ホウレンソウがなされていないから」とか「誤解があるから」ではなく、あくまで「価値観が違うから」だというのが泣けてきます。
たとえば四人の面倒を見ている七倉は、何かと四人に情報を伏せます。不実なようにも思えますが、七倉は四人が人間世界で生きていくすべをなんとか探そうとしています。だからこそモノ祓い師たちと交渉の矢面に立ち、苦渋の決断をしています。
秘密はあれど伝えるべきことは伝えているし、お互いに大切にしたいという気持ちはあるし、自分のやるべきことに手を抜いているわけではない。それでも一番大事なものが違うから、対立してしまう。だからこそこの話は「哀しい」んですよね。
しかし、終わり方はハッピーとは言えない一方、どこかさわやかです。それは、退場したキャラクターもちゃんと「自分のやるべきことをやって去っていった」と思えるからでしょう。
幸せかというと困ってしまうけれど、彼は自分のやりたいこと、願っていたことを他の三人に理解されたうえで去っていきました。だからこそ別れを糧に生きていこうと思えます。
もう読み返すの三回目だから何とも思わないかもな、と思って読んだらまた泣けてしまいました。