今日の更新は、白井弓子『天顕祭』再読感想です。
あらすじ・概要
鳶の若頭、真山は最近雇った女性の鳶、木島が低いところを恐れていると知る。彼女は故郷で「天顕祭」のクシナダヒメに選ばれ、儀式に携わる予定だった。しかしその儀式が不穏なものであると察した真山は、木島を追いかけて彼女の故郷に向かう。たどり着いた深い穴の中にあったのは、天顕祭の秘密だった。
アマチュア作品とは思えない完成度
何度読み返してもこの作品が同人誌だったことに驚きます。アマチュアのクオリティではない。確かに商業でやるにはテーマが地味ですが、ベテラン作家の作品だと言われても信じたでしょう。
ストーリーの筋となるのはふたつで、ひとつは天顕菩薩を祀る神社で行われる天顕祭の秘密の話です。この世界は「汚い戦争」で毒に侵されており、住める地域が限られています。これはどうやら放射能汚染を意識しているっぽい。
そんな過酷な世界で、救済の象徴である天顕菩薩は信仰を集め、倫理にもとる怪しげな儀式をしていた時代もあったようです。
しかしその信仰、どうやらヤマタノオロチ伝説が元になっているようで……。
と、仏教の救済+古事記の伝説+汚染された大地に生まれたカルトと、教義がとんでもなくちゃんぽんになっています。読み返しても理解するのが難しいです。
でもそのこんがらがった信仰が、日本宗教を的確に表していて好きなんですよね。日本の信仰は、なんでもかんでも混ぜまくるところに真髄があります。
そして、もうひとつの筋が、真山と木島のラブストーリーです。といっても、天顕祭のほうがメインでこっちはそれほど濃いテーマではないのですが、そのさりげなさが逆にいい。
厳しい人間だった真山は、木島と出会うことで少し丸くなり、毒に汚染するリスクを冒して木島を追いかけてしまいます。そういうのって、愛じゃないですか。
一方木島も、真山の干渉をきっかけに、自分の運命と向き合い戦うことを決意します。
この、甘くはないけれど確かにふたりとも強い愛があるところが最高にときめきました。
ラストシーンは意味深ですが、きれいにハッピーエンドで終わるよりこの作品らしいと思います。やっぱり何度読み返しても素晴らしい。