あらすじ・概要
編集者を辞めようかと考えていた田中は、ある女性作家の担当に配置換えになる。生活力皆無で食事もまともに取らない、些々浦の作品にほれ込んだ田中は、彼女から原稿を引き出すために屋敷に通う。しかし、些々浦は「自分の書いたことが現実になるのではないか」という疑念を持っており……。
キャラ小説要素が蛇足に感じてしまった
あらすじとしてはそれほど大仰な展開はないいのですが、フィクションと現実の境界線があいまいになり、とてもドラマチックな物語になっています。
いないはずの猫の気配を感じ、取材のために廃墟をさまよい、消えた祖父の影を見る。「気のせいだった」と片付けてしまえばそれまでの、目の前にある現実にふっと不思議なものが交差する瞬間の切り取り方がとてもいい。
カメラや温室の中のノートなど、小道具がきちんと生かされているのも美しいです。
しかしながら、幻想小説パートのできがいいだけに、コミカルな田中と些々浦のやりとりが蛇足に思えてしまいました。いや、これ単体なら面白いんですが、ちょっと作品と合わないかなと。
とはいえコメディパートのできが悪いわけではないですし、これは完全に好みの問題ですね。
著者が上手なのがわかるだけに、あと一歩自分の趣味と一致しなかったことが惜しいですね。コミカルか幻想か、どちらか一方に振り切った別作品なら楽しめるかもしれません。