ブックワームのひとりごと

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古くなった原作をメタツッコミで乗り越える倒叙ミステリ―船津紳平『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』

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金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(1) (週刊少年マガジンコミックス)

 

あらすじ・概要

有名ミステリ漫画『金田一少年の事件簿』。金田一耕助の孫の金田一一が事件を解決するシリーズだ。その漫画の裏には、犯人たちの苦労秘話があった。『金田一』で語られたそれぞれの事件を取り上げ、そのトリックを倒叙ミステリの形で展開するスピンオフギャグ漫画。

 

ミステリの無理のあるトリックをギャグにする漫画

 TLで見かける評判としてはコテコテのネタ漫画なのかと思っていたんですが、ちゃんと話も面白かったです。 

 

頭のいい人が考えるギャグ漫画という感じです。『金田一少年の事件簿』を読みこみ、トリックの順序やしくみを深く理解して、コメディタッチに変換する。読んでいる方もトリックを理解するために頭を使います。

この作品がメタフィクションとして優れているのは、「ミステリのトリックって、よく考えたら無理があるよね」というあるあるをギャグとして昇華しているところです。やたらと体力仕事だったり、運要素が強かったり、特殊技能が必要だったりします。その無理の部分に犯人たちのモノローグでツッコミを入れるから笑えます。

 

『金田一少年の事件簿』も開始から20年以上経っていて、今の価値観では古くなってしまったセクハラ行動、主人公側の犯罪的描写も含まれています。その部分にも積極的にツッコミを入れていくのがまた笑えます。

古い作品が今の価値観に合わなくなったとき、その部分をなかったことにしてリブートしたり、あるいは作品そのものを封印してしまったりもします。でも別作家の描いたスピンオフとはいえ「倫理観のない部分に公式で丁寧にツッコミを入れる」のはかなり新しいですね。

これからの「古い作品のコンプライアンス違反をどう扱うか」問題のひとつの答えだと思います。うかつに手を出すとやけどしそうではありますが。

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