あらすじ・概要
母の死の知らせが届き、生き別れの妹有沙とと再会した旭。有沙は人でないものたち「あやかし」と屋敷で一緒に暮らしていた。有沙は、蛇神の生贄となってしまったという。価値観のおかしいあやかしたちと同居することを心配した旭は、有沙と一緒に暮らすために屋敷に留まる。
鼻っ柱折られる主人公が「ありそう」
ざっくり説明すると「傲慢な主人公旭が鼻っ柱折られる話」なんだけれども、その主人公の潜在的傲慢さがリアルで身につまされました。
たとえば序盤、主人公がプリンをお土産にするとき、妹の分だけ買って屋敷の他のメンバーの分は買ってこないというシーンがあります。そして屋敷のあやかしたちが大好きな妹から反感を買います。
確かに主人公の手落ちなんだけれどやってしまいそうな失敗であわわ……となりました。あやかしだし、他人だし、お菓子を買ってきても食べるかはわからないんですよ。そして潜在的に「人間の妹にあれこれ余計なことをする人外」の認識もあります。それが露呈するシーンです。
でもあやかしたちと妹には、その潜在的な侮蔑が伝わってしまうんですよね。「ありそう」で怖い。
しかしそういう無意識のわがままっぷりを書きながらも、旭を完全否定せず、ストーリーの中で回心のきっかけを与えるところが優しいですね。
他の人間のキャラクターたちも、何かしら「やなとこあるな……」という部分を抱えつつ、彼らを排除するような物語にはなりません。
あやかし側も親しい関係の女の子を食おうとしていたり、その生贄の事実を知っていてへらへらしていたり、絶妙に倫理観がおかしいです。
その倫理のなさを見ると、旭が有沙をあやかしから引き離さないと……と思うのもわからなくもありません。
良くも悪くも旭は「常識」の人なんですよね。
しかしあやかしたちの過去、人となり(人ではないけど)が詳しくわからないまま終わってしまったので、1巻完結ものとしては物足りないですね。
続編の予定がなくても続刊前提に作るのはライト文芸の常かもしれませんが……。