あらすじ・概要
箱を背負い派手な格好をした「薬売り」。あやかしと人の心が交わり発生する「モノノ怪」を切るために、奇妙な事件の起こる場所に現れる。モノノ怪の真(まこと)と理(ことわり)を暴き、怪異の真実に迫っていく。妖怪退治連作短編シリーズ。
わかりにくさを楽しむ妖怪退治アニメ
久しぶりに再視聴。
メインとしては妖怪退治なのだけれど、見てみるとそれだけでは言い表せられない作品なのがわかります。
暗喩に満ちた画面、浮世絵やクリムト、能など過去の美術作品のパロディ、そしてどう解釈すればいいのか悩む意味深な結末。
面白いんだけれど、わかりやすくはありません。こりゃわかりにくさを楽しめる人間じゃないとハマれませんね。
わかりにくいと言いつつ作品の中ではちゃんとテーマがあって、排斥される妊婦や、自分の醜さから逃げ出す男、母親に抑圧された女性、など人の弱さや罪について描かれています。
因果応報な、胸のすく展開もあるのですが、その一方で己の罪を引き受け、悔い改める人間には優しいです。勧善懲悪のようなストーリーにならないところが好ましいです。
そしてテクスチャが多用されたカラフルな映像美もいいんですよね。ここまでカラフルにすると鬱陶しくなりそうなんですが、『モノノ怪』では嫌な感じがしません。
和風の世界観なのに何の説明もなく褐色肌の人間や金髪そばかすの人間が出てくるところも「ここではないどこかの江戸時代」という感じがして好きですね。ある意味多様性的には正解かもしれない。
個人的に一番好きな回は「のっぺらぼう」で、これは母親に束縛され育てられた女性が、嫁ぎ先の家族を殺してしまう話。しかしその事件には秘密があって……。
ひとりの女性が抑圧から逃れ、自分自身の人生を歩み始めるその瞬間が前向きで元気が出ます。
「殺したこと」を示す演出が恐ろしいところも好き。