ブックワームのひとりごと

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格差社会の中で語られるすっとぼけた労働文学―津村記久子『ポトスライムの舟』

ポトスライムの舟 (講談社文庫)

 

あらすじ・概要

 29歳のナガセは、工場で働いている。ある日自分の年収がほぼ世界一周にかかる値段であることを知ったナガセは、工場の給金を一年間丸ごと貯め、他の仕事で生活をすることを思いつく。表題作ほか、格差社会を描いた二編を収録した本。

 

 

禍福が交じり合う中でのリアリティある文学

「ポトスライムの舟」は不思議な感じに混ざり合った作品です。シスターフッドが描かれたと思えば、女同士の関係のつらさも描かれ、ほっこりするシーンがあったと思ったら、醜い現実を突きつけられる瞬間もあります。

それらの描写がどこかとぼけたような、淡々とした語り口で進行していきます。面白いと思いつつ、読者として身の置き所に困ります。「これはこういう話なんだな」と決めつけにくいです。

でもそのようなふわふわしたよくわからない感じが、逆に人生のリアリティを見せつけられている気になります。禍福は糾える縄の如しと言いますが、そもそも禍福ははっきり分かれているわけではありません。登場人物がグレーゾーンを生きるあいまいさに現実味があります。

 

同時収録されている「十二月の窓辺」はパワハラがテーマ。暴言を吐かれることを異常と思えなくなってくる感覚が生々しくて怖いです。それでいて、すっとぼけた文体はそのままなのもちょっと不気味。

最後は少しだけ救いを見せて終わりますが、これだけでは済まされない雰囲気もあり、何とも言えない読後感でした。

 

しかし格差社会にしろ、パワハラにしろ、未だにホットなテーマだということが恐ろしくなります。「ポトスライムの舟」は10年以上前の作品なのに、IT機器以外のガジェット以外はそれほど古くないって何事。

早く「格差社会? そんなこともあったね」という社会にならないだろうか。