あらすじ・概要
タクシードライバーの小戸川は、女子高生行方不明事件に関わっているのではないかと疑いをかけられる。アイドルオタク、かかりつけ医のところの看護師、犯罪者とさまざまな客を乗せるうちに、小戸川は複数の事件に巻き込まれていく。いくつも枝分かれしていた物語がひとつになるとき、小戸川の秘密も明かされる。
この作品は優しい価値観でできている
いやー面白かった。最高。
ストーリーの方は百万回考察されていると思うので、それは他の人に任せるとして、私はこの作品の優しさについて書こうと思います。
ソシャゲの廃課金者、婚活で偽プロフィールを作ってしまう男、悪い男に共依存してしまう女。売れない漫才コンビ。
そのエピソードひとつひとつが大変生々しく、見ていていたたまれなくなるほどです。おかげで連続再生するのが辛く一話ずつ見ていました。
でも、話が進むほどに、この作品はとても優しい人間観でできていることに気づきます。
『オッドタクシー』の登場人物は弱く、愚かで、罪深いです。しかしそういう存在が「いてはならない」という方向にはならないんですよね。
もちろん自分の犯した罪を引き受ける瞬間はあります。だけどそういうキャラも、「自分のやったことを引き受けて生きていくんだろうな」という受容があります。
大抵の物語では悪役は成敗されて終了だけれど、実際のところ死んでいなければ罪を認めた後も人生は続きます。その、人生の続きをちゃんと意識した内容です。
ちょっと話はそれるけれど、私はいわゆるムカつくキャラに復讐する「ざまぁ系」の作品めちゃくちゃ苦手なんですよね。なぜかと言うと、私はチート能力で悪を成敗する主人公ではなく、愚かで悪意のある悪役の方に近しいものを感じてしまうからです。
チート主人公なんて、現実世界では絶対になることができないですよね。でも悪役になるのは結構簡単で、少し道を踏み外すだけでいい。だからざまぁ系の作品を見ると自分が傷つけられた気がしておえっとなってしまうんですよ。
でもこの作品の主人公の小戸川は、基本的には断罪をしません。するとしてもそれは彼の個人的な思いから発されるものです。
ちょっとひねくれもののタクシードライバーが事件に巻き込まれ、何だかんだで周囲を助ける。そこに善意や優しさはあっても、間違えたこと、道を踏み外してしまったことへの「裁き」はありません。
そういう小戸川の在り方に、すごく救われる心地がしました。
重箱の隅をつつくとツッコミどころはあるし、ラストのネタばらしにひっくり返りそうになったんですが、概ねこの作品に流れる価値観は優しく美しかったです。
何でも白黒つけなければいけないという固定観念が苦しい人には見てほしい作品です。