あらすじ・概要
妹を亡くした少年、暁の家に死んだ叔母の娘、桜花がやってくる。一家は子どもを失くした寂しさから桜花に優しく接する。やがて桜花が天才的な絵の才能を持つことがわかり、周囲は桜花に絵を描くことを強く勧める。しかし彼女の絵が有名になったとき、ある真実が明らかになる。
登場人物の心理描写が丁寧で安っぽくならない
とにかく心理描写が丁寧で、登場人物の哀しみや喜びがストーリーからびしばし伝わってきます。
子どもを失い失意の中にあった一家が桜花という少女に救いを感じていること、桜花が迷いながら絵を描くことを喜びとしていく過程、桜花の絵によって救いを感じることができた周囲の人々。
と、これなら美しい話のままですが、桜花の父が連続殺人犯だということがわかってから様相が変わってきます。そして桜花がより良い絵を描くためにやったことが、周囲と桜花自身の運命を大きく変えてしまいます。
うっかりすると感動ポルノになりかねないストーリーだと思いますが、周囲が桜花を心から愛し、心配している描写があるから安っぽくなりません。基本的にひとりを除いて悪人が出てこないんですよね。いや、あくどいマスコミは出て来ますが。ヒロイン含めて本当にいいやつだな……と思います。
唯一の悪役と言っていい美咲も、本当に腹が立つやつなんですが、悪役の貫禄があってよかったです。そう簡単に超えられない壁、世の中の理不尽の象徴としてうまくできているんです。そしてうっすら「こういう人いるかもしれない」と思ってしまいます。
そんな彼女に桜花が最後にしたことは、ある意味復讐よりも残酷だと思います。あれ、世の中の優しさに背を向けている性格の人が一番ムカつく行為でしょう。桜花の意図とはずれるけれどちょっと痛快でした。