創作を志すオタクが多いせいか、創作をテーマにしたラノベやライト文芸って結構多いですよね。
今回はその中からおすすめをまとめてみました。
文芸
先輩のおかげで創作活動に再び前向きになる『きみって私のこと好きなんでしょ?』
根暗な少年黒矢は、文芸部の先輩である白森霞に「きみって私のこと好きなんでしょ?」と見抜かれてしまう。お試しで付き合い始めたふたり。白森はからかいや誘惑で黒矢を翻弄する。振り回されつつも、彼女への思慕が止まらない黒矢だったが……。
メインは年上彼女とのラブコメなんですが、主人公はweb小説を書籍化して大コケした過去があり、その挫折から回復するサブ要素があります。
激しくドラマティックな展開はしませんが、相手の何気ない言葉や行動で少し価値観が変わり、生きるのが楽になるシーンが多いです。そこが好き。
ラノベ作家が幼馴染と恋をしつつ美少女作家に振り回される『ラノベのプロ!』
アニメ化がこけたライトノベル作家、神陽太は、税金対策として幼馴染の結麻をアシスタントとして雇った。彼の元には天才肌の高校生作家や、中二病の中学生作家がやってくる。「売り豚」として売れるラノベを追求する陽太が、金にこだわるある理由とは……。
主人公が嫉妬深く、自分より売れている作品に向かって「初動に貢献したくないから発売日には買わない」とのたまってしまいます。しかもコミュニケーションが苦手で、失敗もしてしまいます。しかしよくよく読んでみると、陽太はすごくいいやつだということがわかるんですよね。
美少女に振り回されつつも、作家としてはちゃんと価値観を持っているところが好感の持てる作品です。
腐女子と純文学出身のラノベ作家の奇妙な恋物語『ラ・のべつまくなし』
売れない小説家、矢文学は、糊口をしのぐためにラノベ作家に転向する。原稿にを書けなくなり、立ち寄った図書館で出会った少女に一目ぼれ。その少女明日葉は、男と男の恋愛が好きな女性、腐女子だった!
純文学を志しながら、ラノベを書いている。そんな自分を肯定できなかった学が、明るく強く「好きなもの」を語る明日葉に感化されて、今の自分を受け入れられるようになったのはうれしかったです。ヒロインはオタクとしてはどうかと思うけど、学にはこういう人が必要だったのかもしれない……。
話自体はとても前向きで元気が出ます。
猫と暮らした私小説ライトノベル『先生とそのお布団』
売れないライトノベル作家、石川布団。人の言葉を理解する猫「先生」とともに、今日もひたすら小説を書く。打ち切り、出版、また打ち切りと、出口の見えない戦いに疲弊していく布団だったが……。
読んでいて思うのは、布団が趣味で小説を書く人だったらこんなにも苦しまなかっただろうということです。ひとりでも多くの読者に作品を届け、作品を作ることでお金を稼ぎたいと思った時点で、どうしようもない業を背負ってしまうんですよね。
作中に特別悪い人は出て来ません。布団に冷たくする編集者たちにも、レーベルを守るためには、売れない小説ばかり出していくわけにはいかないという事情があります。世知辛いけれど生々しさがありました。
盗作から始まるラブコメ『ラノベ作家になりたくて震える』
自分の書いた作品そっくりの小説がライトノベルの賞を受賞した。主人公藍介の小説を書き直し、勝手に応募したのはかつて藍介がいじめられる原因を作った睡蓮。作品の続きを書きたい気持ちと、睡蓮の「藍介の作品が好き」という言葉につられて、藍介は2巻を書くことになるが……。
導入がものすごく倫理がないけど個人的には好きです。
小説家のゴーストライターになってしまった少女の崩壊 『私が大好きな小説家を殺すまで』
人気小説家、 遥川悠真が失踪した。それには、ある少女がかかわっていた。彼女の名前は暮居梓。遥川悠真に拾われ、共生生活を送っていたが、彼女がスランプに落ち込む彼にやったことが、ふたりの関係を完膚なきまでに変えてしまう。
おにロリ系の作品、年の差によるタブーには突っ込まないことが多いんですが、この作品は「大人の男が小学生女子を家に入れる」ということがきちんと重いこととして扱われています。そしてそれゆえに、ふたりの関係性の救いのなさが強調されています。
しかし最初はお互いの存在に救われていたのも描写でわかり、破滅しかない関係であっても一抹の美しさがあります。マジで地獄。
演劇
シェイクスピア劇をテーマにした虚実入り混じるステージ『ハムレット・シンドローム』
事故により自分がハムレットだと思い込むようになった男、コマツアリマサ。彼が本当に狂っているのかどうかを確かめるため、ソフエは彼の住む城に潜入する。そこは、コマツが客人を巻き込んでハムレットを演じ続ける場所だった。
どういう小説なのかひとことでは言い表しにくい本です。それほど虚構と真実、嘘と本音、役柄と役者、舞台と観客の垣根がないんですよね。
読者である私が「こういうことかな?」と納得しかけたとたんに物語が逃げていき、何度も解釈の中で迷子になります。でも、それが面白いです。わけのわからなさが面白い。
混乱しながら読むのが楽しい奇書系ライトノベルです。
古い台本に呪われてハーレム状態になる『ロミオの災難』
一年生五人だけの演劇部。文化祭の公演の相談をしていると、五人で演じられる『ロミオとジュリエット』の台本が落ちてきた。その台本を演じることにした五人だったが、なぜか部員たちの恋愛の矢印が、ロミオ役の如月に向き始め……。
ハーレム状態で嬉しいな、という感覚ではなく、思い人の本心に悩み、操られた恋心によって騒動を起こす部員たちに悩み……という如月の心中が面白かったです。
そして終盤における、演劇シーンの怒涛の展開はすごく面白かったです。
基本的に青春ラブコメなんですが、その中で自分の感情に向き合い、結論を出していく少年少女たちは気持ちよかったです。
吸血鬼になった少年が演劇の道へ 『吸血鬼になったキミは永遠に恋をはじめる』
赤い目の少女によって吸血鬼になってしまった詩也。転校した先で、背が高いことを買われ演劇部に誘われる。彼は背の高い女の子、綾音のパートナーとなり、『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラ伯爵を演じることに。
吸血鬼になってしまった男の子が吸血衝動に葛藤し、周囲から距離を置こうとする部分はとてもベタです。よく言えば王道、悪く言えばありきたり。
しかしそれを演劇と組み合わせたところが面白かったです。死にたくても死ねない詩也が、舞台の上で「死」を演じる皮肉。だけどそれが詩也の救いになっていくという構図が独特でした。
ただなんとなく変わったものを組み合わせただけではなく、きちんと両者の良さを理解したうえでミックスした作品です。
映画
映画を制作しながら三角関係『ボンクラーズ・ドントクライ』
二人でヒーローごっこをしていた映画研究部の「僕」とカントク。そこに男装の少女桐香が現れたことから、映画研究部は変わっていく。三人の淡い恋の行方はいったいどうなるのか……。
女の子一人、男の子二人の三角関係ストーリーなんですが、あまりドロドロはしていなくて、三人のかけがえのない日常がメインとして描かれていたのがさわやかでした。日常シーンが本当にかわいらしくて和みます。
悲恋といってもいい物語ですが、それだけではなく、少し希望をもって終わったのが素晴らしかったです。
主人公が部活仲間二人を大切に思っているところがいとおしくてよかったです。基本的に悪い人が出て来ない作品なので、読んでいて安心できました。
超悪趣味な映画製作小説『[映]アムリタ』
自主映画製作に誘われた役者で大学生の二見。彼は渡された絵コンテを二日間ぶっ通しで読んでしまった。そのコンテを作ったのは最早というひとつ後輩の女性だった。二見は映画製作をするうちに彼女の心をはかりかねるようになる。
ある意味読者の期待を全力で裏切ってくるので、不愉快に思う人もいるでしょう。ですが私は吹っ切れてて好きです。ここまで全力投球してくれると何も言えなくなりました。
いやほんと、嫌いな人は「なんでこんな本読んでしまったんだろう」と後悔するレベルだと思いますよ。しかし悪趣味さを娯楽として読む人には、かなり面白い作品ではないでしょうか。
創作要素より悪趣味要素の方が強いですが、個人的には好きです。
絵画・造形
芸術家の少女と死にたい女の子の百合『幽霊列車とこんぺい糖 メモリー・オブ・リガヤ』
中学生の海幸は、列車に飛び込んで自殺しようとしたところ、電車が廃線になっていて不可能だった。そこでリガヤという少女に出会う。芸術家である彼女に半ば脅されるようにして、「幽霊列車」の作品を作るのに協力する海幸だったが……。
女の子同士がキスをしたり距離が近かったりする「百合」だけど、単純に「女の子同士がいちゃついている」だけに頼らないしっかりしたストーリーがあって面白かったです。
交流を通して少しずつ明かされていく、海幸とリガヤの過去。そしてそれを清算するためのラストシーン。その過程が非常に自然で、かつ読みごたえがありました。
一巻完結でありながら、きちんとキャラクターが掘り下げられているところも好きです。この短さで脇役含めて描写するのは並大抵のことではないと思います。百合が嫌いでなければ一度読んでみてほしい作品です。
ヒモ青年が老女画家の家に居候して料理『極彩色の食卓』
美大を休学して女性の家を転々としていた青年、燕(つばめ)は、半分引退したような女流画家律子に拾われる。律子は掃除もできなければ炊事もできず、まったく生活力がない。燕は律子の弟子から送られてくる食材を駆使して料理を作るのだった。
老いた女流画家と休学中の美大生の、居候以上恋愛未満の奇妙な関係。料理を作りながら穏やかに暮らしているようで、お互いに執着を持ち始めていきます。
それでいて、心に苦しみを抱えたふたりは、少しずつ救われていきます。両親に絵を描くことを強いられ、美大に入ってから絵が描けなくなってしまった燕と、あることをきっかけに絵に黄色が使えなくなってしまった律子。ある意味で「色」を失った燕と律子が、食事をともにするうちにその「色」を取り戻していくストーリーが本当に美しかったです。
類まれな絵の才能を持つ少女の絶望と救済『月の盾』
妹を亡くした少年、暁の家に死んだ叔母の娘、桜花がやってくる。一家は子どもを失くした寂しさから桜花に優しく接する。やがて桜花が天才的な絵の才能を持つことがわかり、周囲は桜花に絵を描くことを強く勧める。しかし彼女の絵が有名になったとき、ある真実が明らかになる。
とにかく心理描写が丁寧で、登場人物の哀しみや喜びがストーリーからびしばし伝わってきます。
子どもを失い失意の中にあった一家が桜花という少女に救いを感じていること、桜花が迷いながら絵を描くことを喜びとしていく過程、桜花の絵によって救いを感じることができた周囲の人々。
そしてある事実がわかってからのストーリー展開が大変つらいです。でも、それも美しいラストに繋がるんですよね。