ブックワームのひとりごと

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ドラァグ・クイーンになりたい少年がプロムでドレスを着ることを目指す―「ミュージカル『ジェイミー』」(大阪千秋楽)

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あらすじ・概要

16歳のジェイミーは、本当はドラァグ・クイーンになりたいのだが周りに言い出せずにいる。しかし母から真っ赤なハイヒールをプレゼントされたことをきっかけに、その夢を押さえられなくなる。ジェイミーはドレスを着て、プロムに出ようと決意するが、その道は平坦ではなく……。

 

「自分らしさ」とは何かを真面目に考えた作品

新歌舞伎座を通りがかったらたまたま席が空いていたのでふらっと入ってみた作品でしたが、思った以上によかったです。

何も情報を入れずに見たのでまず生演奏でのミュージカルなことにびっくりしました。小さめのバンドだけれど。セットからバンドの姿が透けて見えるようになっているので臨場感がありました。

 

ストーリーは少年が夢を叶えようとするが、周囲との軋轢によってうまく行かず、しかし優しい友達や師匠的存在によってやりたいことを果たすというもの。話そのものに尖ったところはなく、予想通りに進みます。

こういう話ってご都合主義や説教臭さがつきまといがちなんですが、あまり押しつけがましくは感じませんでした。テーマにひとひねりあるからです。

 

ジェイミーはドラァグ・クイーンとして「自分ではない自分」を演じます。しかしその仮面が不安定になったとき、自分自身のアイデンティティも不安定になってしまいます。そのとき、演じることで強くなるのではなく、「演じなくても、あなたはすばらしい」という結論になるところがよかったです。

確かになりたい自分に近づこうと演じることで強くなれる側面はあります。演じなければ自分ではないというわけではありません。

「なりたい自分になればいい」というありがちなメッセージから一歩踏み込んだ、深みのあるテーマだと思います。

 

ディーンやジェイミーの父のような悪役的な立ち位置のキャラクターも、邪悪というより弱い人間として描かれていて、「虐げられる人」と「虐げる人」で分かれているわけではありません。

話自体はベタですが、勧善懲悪にはならない塩梅が素晴らしかったです。

 

総合して、自分らしさとは何かという問題に対してきちんと考え、結論を出した上で書かれた脚本だと思います。ありがちな内容でありながら、きちんと見る人のことを考えた、お為ごかしっぽさがない作品でした。