あらすじ・概要
クールで真面目だが事なかれ主義的な経理事務員、沙名子は経費や出張費のおかしなところを見つけてしまい、そこから社内の人間関係を垣間見てしまう。大量に経費を使う広報担当者、コーヒーメーカーを巡る戦い、やたらと出張を長く設定する営業部員。沙名子はその度にお金の行先を調べるのだが……。
ドロドロしているが救いがある小説
相変わらず落として上げたり上げたら落としたりが激しい作品です。読み進めるだけでキャラクターへの評価がコロコロ変わっていきます。
職場の女性同士のトラブルにどっちつかずの態度を取って、なおかつ「自分は中立だから」とはっきり言わない姿に沙名子にいらいらしましたが、一方で沙名子は自分の性格が悪いことに自覚的であり、太陽のような裏表のない素直で優しい人間に劣等感を抱きます。欠点と、人間的魅力が表裏一体として描かれているんですよね……。
主人公はヤバい女だけど周囲も経費をだまくらかしたり出張費を多めに請求したりヤバい。
そしてエピローグで、「愚かだと周囲をどこか見下している」主人公がいなくてもみんな仲良くやってるし何だかんだ仕事も回るところを見せるのがなかなか趣味が悪いです。
ミステリっぽい形式を取ってはいるものの、重きを置かれているのは謎解きではなく経理という仕事から見た人間関係だと思います。
内容としては結構ドロドロしていて、主人公も人格に問題があり、あまり明るい気持ちになれる作品ではありません。でも社会ってそういうもの、ヤバい人間同士が何とか共存しながら生きている、と思えるので救いはあります。
仕事に対して甘ったるいことを言わないから誠実な話ではあるんですよね。
なかなか読み進めるのに疲労が大きいのでおすすめはしがたいんですが、本当によくできた小説です。