ブックワームのひとりごと

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読書初心者におすすめの新書10選

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今回は今までブログで紹介した新書の中から、比較的読書初心者でもとっつきやすいかなと思うものをまとめてみました。

ただ私も「本好き」で、本を読むのが苦手な人のことはよくわからないので、ずれたセレクトだったらごめんなさい。

 

 

辞書作りを通して世界を見る『辞書を編む』

辞書編纂の仕事をしている著者は、新たな版の辞書を作るために「言葉」を追う。日常の中から気になった言葉を収集し、減らす項目、増やす項目について悩み、抽象的な用語の説明に四苦八苦する。言葉のプロが辞書作りを通して、日本語でできた世界を紹介する。

さすが日本語のプロが書く本で、文章が平易で大変読みやすいです。中学生くらいにも読める新書なのではないでしょうか。疲れているときでも読みやすくていいですね。

面白かったのが三浦しをんの小説『舟を編む』の1シーンをきっかけに「恋愛」の説明を変えるべきではないかという議論がなされたことです。一冊の小説が企業を動かすことがあるんですね。

「恋愛」を男女の性愛に限定するのは同性に恋する人々への配慮にかける。しかし「恋」を性別抜きにどう説明すればいいのか……。悩む過程が面白かったです。

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あのCMはなぜ女性の反感を買うのか『炎上CMでよみとくジェンダー論』

企業が練って制作しているCM。しかし、それが特定の層の反感を買い「炎上」してしまうことがある。なぜ、そんなことが起こるのか。それは性別への固定観念がありありと描かれているからだ。ジェンダー的背景を解説し、炎上するCMのパターンを整理。CMの面白さと怖さを語る本。

紹介されている炎上CMは、総じて雑というか、「女性/男性はこんなもんだろう」という固定観念に凝り固まっています。そもそもCMの中のシナリオが破綻しているものすらあります。

巻末には西暦順に炎上CMが紹介されていて、著者のコメントも添えられています。自分がいまいちに思ったCMを著者が「アリ」だと思っている場合もあり、この問題にはっきりした正解はないのだと感じます。

 一方で誰かが語り、本にしなければいけないテーマだとも思います。そういう意味では面白かったです。

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公衆衛生と個人の自由はどう折り合いをつけるべきか『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』

アイルランド系移民で館の使用人だったメアリー・マーロウ。料理が上手く屋敷の主人からも信頼を得ていたが、彼女は腸チフスの無症状キャリアだった。今まで働いた屋敷で何度も腸チフスを感染させてきた彼女は、無理やり社会から隔離させられる。しかし、それは正しいことだったのだろうか……。

明確に何が悪いと語られるタイプの本ではないため、読み終わってもすっきりしませんでした。でもあえて、そういう風に文章を書いてあるのでしょう。

繰り返されるのは、メアリーが「チフスをばらまいた毒婦」でも「かわいそうな被害者」でもなく、普通の人だったという事実です。無症状キャリアの象徴となる前に、ただの人間だった。著者はその人間としてのメアリーを見ろ、と伝えて来ます。

そして、その「普通の人間」に対して、公衆衛生はどこまで介入していいのか、という話でもあります。

コロナ禍の中で読めてよかった本です。

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コネも血筋もない人間から見た選挙の世界『自民党で選挙と議員をやりました』

古いコインを商っていた著者、山内和彦は、ある日市会議員候補の公募に参加しないかと持ち掛けられる。自民党の支援を受けて出馬し、候補者として選挙活動を戦っていくことになったのだが、そこにはさまざまな「決まり」があった。血筋もコネもない人間から見た「出馬」を描く本。

サクサク読めて情報量として多いわけではありません。しかし、それでも知らないことばかりということは、私があまり選挙の実情について関心を持ってこなかったということですね。

10年以上前の本なので変わっているところは多いでしょうが、日本の選挙活動についておおまかな流れがわかりました。

の本には出馬する上でのお金の事情、党との付き合い、自民党独自の候補者支援などが書かれています。本にする上でいくらかマイルドにはなっているとは思いますが、なかなか世知辛い内容が多いです。

自民党とタイトルについていますが、自民党支持者以外にも読んでほしい本です。

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王家を中心に語るイギリス史ダイジェスト『王様でたどるイギリス史』

現在は立憲君主制の国イギリス。その王家はいつからあるのか、どのような歴史をたどってきたのか。アングロ・サクソンの時代から、現在のエリザベス女王の御代まで、イギリスの国王と民衆との関係を解説する。

「王家を中心としたイギリス史ダイジェスト」といった感じで、アングロ・サクソンから現代までのイギリスの歴史がざっくりわかります。

改めてイギリス史を俯瞰してみると予想以上に血なまぐさいですね。中世はもちろん、現代に近くなっても好戦的な文化が強かったようです。王も軍人として、総大将としての立ち位置が強かったみたいで、シャーマン王である日本の天皇家とは全然違います。

イギリス史がざっくりつかめるので世界史初心者にはおすすめです。

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父親の人生から見る日本の戦後史『生きて帰ってきた男―ある日本兵の戦争と戦後』

北海道の佐呂間に生まれた少年謙二は、1944年に出征する。その先でシベリアへと連れていかれ、抑留生活が始まった。著者が自身の父から人生を聞き取り、補足説明とともにまとめた個人史本。

何よりも良かったのが謙二のしっかりとした語り口ですね。著者の父、謙二自身は自分が頭がいいと思っておらず、実際に難しい政治の話はわからなかったようです。半面、とてもクールで感情に流されず、懐古を交えず淡々と自分の生きた時代をとらえています。

高齢者が昔の話をするときにありがちな、自慢話や感傷的な物言いがなく、だからこそ孫世代にあたる私も淡々と読めました。

聞き手である著者の補足も的確で読みやすかったです。個人の歴史だけでは語れないところをデータや記録でカバーしてくれました。

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クレーマーだって店員に観察されている『となりのクレーマー 「苦情を言う人」との交渉術』

百貨店のクレーム対応をしていた著者。そんな著者が実際に処理した苦情・クレーム案件を紹介する。お店が損をしないような、クレームに対応するときの心がけ、交渉の技術とは……。

面白いのは著者のクレーマーに関する観察眼。どんなことを言われても冷静さを崩さず、丁重に謝りつつもお金はそう簡単に渡さない。そして相手の主張に矛盾を見つけたら、そこを根拠に断る。

クレーマーだって店員に観察され、批評されている。それはある意味怒鳴り返されたり泣かれたりするより怖いことかもしれませんね。

怒鳴られたり理不尽なことを言われて冷静でいるのは難しいと思いますが、そうできる著者はかっこよかったです。

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貧困とは「溜め」がないことである『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』

貧困に陥る人には「溜め」がない――。人々を絶望させるのは、金銭的貧困だけではなく、コミュニティからの断絶もある。「貧困」を捉えなおし、搾取から脱出するすべを模索する本。

この本で印象的だったのは、「溜め」の概念です。「溜め」というのはため池の溜めで、困ったときに融通できる余裕のようなものとして定義されています。

カウンセリングを受けたり、自分なりにストレス発散をするのは精神的な「溜め」を作る行為だし、人間関係を維持していくのは人間関係の「溜め」を作ることでもあります。

貧困とは「溜め」が作れないことである、という言葉にすっきりする人は多いのでは。

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教科書から見る世界の宗教教育『世界の教科書でよむ<宗教>』

高校の倫理教科書の編集に携わっている著者が、各国の宗教教育の教科書を集め、比較。その国で「宗教」とはどのように学ばれているかを通して、日本における宗教教育の問題点も見えてくる。

登場する国は基本的に政教分離であり、国教は公式にはありません。しかし、明らかに特定の宗教に集中していたり、あるいは教会が直接学校に指導に言っていたり、完全に公平というわけではありません。

ただ、共通しているのは、世界同時多発テロや移民問題などで宗教間の偏見が増大される中、「どのように子供たちに宗教における寛容を教えるか」について各国が悩んでいるところです。

こうして見ると教科書作りというのは、間違いはあるのに答えはない難しい過程なのだなあと感じます。

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50代だけど婚活やってみた『すべての婚活やってみました』

50代だけど結婚したい。さまざまな婚活イベントや婚活ツールに登録した著者が、その体験を書き、これから婚活する人々にアドバイスする。彼が婚活で出会った人々とは……。

面白かったのが、カップルとして別れてもお互いの友達を紹介し合ったり、コンパを開催したりしていることです。

思えば婚活している人同士であれば、元カップルであっても「よさそうな人を紹介してくれ」と言うのは何ら問題がないんですよね。それが目的なんですから。しかしそのドライさにはびっくりしました。

他にも出会った人の紹介でコンパする話が多く、そういう婚活ネットワークを持つことも婚活の一部なんだなあと思いました。

でも意中の女性とはなかなかつきあえず、問題のある女性とカップルになってしまうのは、「自分が婚活市場でそれだけの価値しかないからだ」と冷静に思える著者はえらいと思います。

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以上です。興味があるものがあればぜひ読んでみてください。