あらすじ・概要
脳に関する技術を提供する会社、「ブレブレブレイン」。死んだ人間の脳みそを最愛の人に届けるサービス、暴力的な子どもをいい子にする機械、「彼を大好きだったあの日」に戻れる薬。彼らの技術は人々の心に波を起こし、否応なく自分自身と向き合わされてしまう……SF連作短編。
世界観、人間観に優れた作品
正直絵が上手いわけではないし、ものすごく個性的な話でもないけれど、独特の世界観、人間観のある話でした。
世の中を良くしようと誕生するテクノロジー。しかしそれで人々の悲しみや劣等感やコンプレックス、後悔がなくなるわけではありません。「便利」と「救い」は違います。
どれほどテクノロジーが発達し、人の心を操れるようになっても、自分の心を救うのは自分だけなのでしょう。
連作短編に登場する技術を作り出した女性研究者はサイコパスで、人の心が根本的にわからない人間なのですが、最後まで読むと彼女が少しかわいそうになってきます。彼女もまた自分の心を自分で救うすべがわからない人です。だからこそ倫理のないテクノロジーを生み出してしまったのかもしれません。
最後の終わり方はめちゃくちゃ皮肉だけれど、彼女の孤独を思うと複雑な気持ちです。
個人的に好きなのは「よいこくん」と「世界は愛に溢れている」ですね。
よいこくんは衝動的、暴力的な子どもを「いい子」にするテクノロジーの話なんですが、技術も怖いし周囲の反応も怖い。最後の終わり方はさわやかでしたが、周囲が母親を支えてやれなかったのかと思います。発達障害当事者として。
「世界は愛に溢れている」はこの作品の全体のオチにあたる作品で、ブレブレブレインという会社の行きつく先が見られます。始まり方も終わり方も皮肉、何とも言えない読後感を得た作品でした。