ブックワームのひとりごと

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盲目の琵琶弾きと異形の舞い手が、平家の無念を歌い人々を癒す―『犬王』

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犬王 アニメーションガイド

 

あらすじ・概要

壇ノ浦で平家の落としたものを引き上げて暮らしていた友魚とその父は、ある男に宝を引き上げてほしいと依頼される。だがそれを引き上げた友魚の父は死に、友魚は盲目になってしまう。琵琶法師に弟子入りした友魚は、兄貴分と京に上り、そこで異形の少年と出会う。少年は、たぐいまれな歌と踊りの才能を持っていた。

 

テーマやメッセージが強く前向きになれる映画

いやーすごかったです。映画館で最後に拍手起こったんですよ。演劇のライビュ以外では拍手起こるの初めて見ました。そのくらい観客にとっても一体感がありました。

 

ストーリー自体は単純で、最後に種明かしがちょっとある以外は、伏線もそれほどありません。その代わり、ライブシーンにエンタメ性とメッセージ性をごりごりに盛り込んできています。

なぜ歌うのか、なぜ踊るのか、そしてなぜ世の人々はエンターテインメントを必要とするのか……。という疑問の答えが映像と歌でしっかり表現されています。その潔さ、かっこよさにしびれました。

表現者が「ここにいる(いた)ぞ」と伝え、受け取る側が「あの人たちがここにいる(いた)ように、私たちもこの世界にいていい」と思う。物語がなぜ人々を励ましてくれるのかが描かれていてちょっと泣きそうになりました。

物語が世界を救ってくれるわけではありませんが、世界が残酷だからこそ、物語を表現する人は必要なのだ……と思うと自分も何か書いて残さないとな、という気分になります。

 

わかりやすいイケメンや美女がほとんど出てこず、むしろ萌えに向かないような人の身体の泥臭い、生々しい部分が強調されていたところも潔くてよかったです。キャラクタービジネスをするつもりのない硬派さ。

キャラクタービジネスはそれはそれで嫌いではないですが、「アニメという文化はもっといろんな展開ができる」という意思を感じました。

 

この世にはつらいことがいっぱいあるけれど、後世に物語を伝えるために、ましな世の中を残すために、もう少し頑張ろう……と思える作品でした。