あらすじ・概要
多忙な母親を持ち、双子の弟妹の世話をしながら生活している彗花は、クラスメイトの不良少女、蓮が漫画を描いていることを知ってしまう。さらに彼女の原稿用紙を双子が汚してしまい、彗花は償いとして蓮の新人賞応募を手伝うことに。原稿をしているうちに、蓮と彗花は心を通わせていく。
真面目で硬派な青春小説
かわいい女の子がキャッキャウフフするだけの話かと思っていましたが、ふたを開けてみると、非常に真面目で硬派な青春小説でした。
見どころは彗花と蓮の関係性です。安易に「それっぽくエモい」描写に頼らず、丁寧に違った境遇や価値観を持つふたりが仲良くなっていく描写を積み重ねていきます。
漫画を描く、食事をするなど、内容としてはかなり地味なシーンが多いのに、ストーリーや描かれる心理がきちんとしているから気になりません。
また、テーマになっている「漫画」の描写もしっかりしています。
漫画に関するフィクションは、実際のところ「どうやって漫画を描くか」の部分はふわっとしていて、精神面の話をして終わってしまうことが多いのですが、この小説は漫画を描く過程をきちんと書き込んでいます。
それでいて、その説明も自然で、過剰ではありません。
また、なれ合いとしての、仲良くなるための創作活動ではなく、「夢を叶えたい」「自分を表現したい」という強い思いを持った活動である、というところがかっこよかったですね。
だからこそこの小説は甘っちょろい描写をせず、蓮の漫画は正直なところ下手なものからスタートします。最初から面白いものは描けないし、努力を少ししたくらいでそれが覆るわけではない。シビアですが、そこが良かったと思います。
文章力、描写力も高く、ストーリーも完成度が高かったです。地味ではありますが、とても堅実で面白かったです。