ブックワームのひとりごと

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【現代・ファンタジー・SF】メディアワークス文庫のおすすめ9選

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今回はメディアワークス文庫のおすすめ作品をまとめてみました。

 

 

スポーツに人生をかけた女子サッカー選手、引退して婚活する『婚活シュート!』

なでしこリーグで選手をやっていたナツは、ファンに惜しまれながらも引退した。しかし引退して、自分はサッカーしかやってこなかったことに気づく。孤独感や子育てへのあこがれから、婚活を始めるナツだったが、サッカー一筋で世間知らずのナツはうまく婚活することができず……。

婚活は、どうしても自分が恋愛対象として評価され、「市場価値」がわかってしまうものです。そういう事実とどうにか向き合い、最終的に前向きになろうとする主人公が心地よかったです。

アスリートでサッカー一筋で生きて来た主人公が、婚活をきっかけに自分の人生を見つめ直し、一喜一憂しながらあがいていくところは、同世代の人間として共感しました。応援したくもあります。

そして婚活を扱いながらも、露悪的になりすぎず、過度に嫌な展開をしなかったところも好感が持てました。

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生贄少女は神様と出会って自分の優先順位が狂う『きっと彼女は神様なんかじゃない』

部族の中で疎外されていた「わたし」は、ある日神の生贄になることを命じられる。贄として向かった海の中で出会ったのは、見知らぬ少女だった。メイという名の少女は、神様として部族に迎えられる。「わたし」はメイと交流を重ねるうちに、彼女に特別な感情を抱くようになる。

登場人物の外見がぱっと見ではわからない、小説媒体を生かした展開で面白かったです。読み進めるほどに世界観の秘密や、登場人物の背景が明かされていって、どんどんページを進めたくなりました。

内容や設定自体はふわっとしたところもありますが、そこも寓話的、神話的な雰囲気を醸し出していて悪くないと思います。

主人公は部族社会の人間であり、人殺しもするし生き残るために周りより自分を優先する、現代社会から見ると野蛮なキャラクターです。そんな彼女が、「神様」であるメイと出会い、自分の中の優先順位が揺らぎ始めるのが愛しいです。

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少年少女が時間の不思議に巻き込まれる短編集『ある日、爆弾がおちてきて【新装版】』

浪人生の前に現れたのは、高校時代好意を持っていた女の子だった。彼女は自分が爆弾だと名乗り、主人公とデートをしてドキドキしようとするが……。表題作ほか、精神だけ時間を遡る奇病、図書館にいる小さな神様、窓に映った違う時間軸の少女など、時間SFと少年少女を描いた短編集。

好きな作品は「三時間目のまどか」です。窓に映る六年前の少女と筆談や手話で会話をする話。窓でつながるボーイミーツガールがロマンチックだし、オチの小粋な展開も最高。

表題作と対になっている「むかし、爆弾がおちてきて」もよかったです。少年が強い好奇心と憧れによって(ある意味)時間を超えるのが面白いです。周囲から見ればおかしい行動だろうけれど、物語の中ではすごく魅力的に見えます。

昔の作品なので今となっては古くなってしまった部分はありますが、それでも面白かったです。

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ラテンアメリカ風の世界で孤独な少女と奴隷の男が出会う『アヤンナの美しい鳥』

高地に暮らすアヤンナは、ある日奴隷商人に売られそうになっていた異人の男リリエンを助ける。足萎えである男をしぶしぶながらも家に置いたアヤンナだったが、アヤンナの顔にある醜い傷を見ても動じず、尽くしてくれるリリエンに惹かれるようになる。しかしふたりの暮らす王国には、不穏な噂がはびこっていて……。

魔法の力と引き換えに、顔に醜い傷を持つアヤンナ。彼女はそれゆえに卑屈で、褒め言葉を素直に受け取ることができません。

その卑屈さにときにいらいらさせられることもあったのですが、同時に、彼女は根は優しく、真面目で義理堅い人間だとわかってきます。

メインの筋としてはアヤンナとリリエンの悲しいラブストーリーなのですが、アヤンナに性知識が全くと言っていいほどないため、幼児の初恋のような雰囲気です。しかしその、性にはっきり目覚める前の原始的な愛だからこそリリエンは居心地がよかったのでしょう。来歴から考えても。

幸せな終わりとはいいがたい作品ですが、ふたりの出会いは、周りに少しだけ救いをもたらしています。悲しいけれど美しい話でした。

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お互いへの依存関係が生んだ闇のおにロリ『私が大好きな小説家を殺すまで』

人気小説家、 遥川悠真が失踪した。それには、ある少女がかかわっていた。彼女の名前は暮居梓。遥川悠真に拾われ、共生生活を送っていたが、彼女がスランプに落ち込む彼にやったことが、ふたりの関係を完膚なきまでに変えてしまう。

という一文から始まるこの作品。端的に言うと闇のおにロリでした。

おにロリ系の作品、年の差によるタブーには突っ込まないことが多いんですが、この作品は「大人の男が小学生女子を家に入れる」ということがきちんと重いこととして扱われています。そしてそれゆえに、ふたりの関係性の救いのなさが強調されています。

ただ、親から虐待を受け、頼れる大人がいなかった梓には、遥川しか頼れるものがいませんでした。そして、梓は崇拝するレベルで遥川の作品が好きだったのです。このふたつの要因によって、梓は不健全な関係から抜け出せなくなってしまいます。

遥川自身も、自分を純粋に求めてくれる人を必要としてしまいました。かくしてふたりの関係はゆっくりと崩壊していくことになります。

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ひきこもりの弟が初対面の女性と結婚する『ひきこもりの弟だった』

ひきこもりの兄と、彼を過保護に世話する母との関係がトラウマになっている「僕」。彼は初対面の女性、千草から結婚することを持ちかけられる。僕と彼女は、穏やかに生活を送っていくが……。

ひきこもりの兄と、彼と共依存関係に陥っていく母親の描写がリアルでとても辛かったです。

回想と平行して、主人公の妻千草との現在の関係が描かれていきます。何か訳ありらしい彼女と、自身もひきこもりの兄によるトラウマを抱える主人公。おだやかで優しいようでいて、いつ壊れるかわからない不安定なふたりにははらはらしました。

他の人の地獄を背負う必要なんてないんですけど。知ってしまったら何かできなかったのかと思うのは止められないでしょう。

みんなが内なる地獄によって、誰かを傷つけた。彼らに責任があるかと言われれば微妙です。それが罪であれば傷つくことすらだめになってしまいます。本当にやるせないですね。

 

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那須与一の霊に憑りつかれて弓道部へ『キュードー・ライフ!』

ひょんなことから那須与一の霊に憑りつかれた良治。彼はひとりきりで弓道部の活動をしていた鹿目梓に一目ぼれし、弓道部に入部する。良治はどんどん弓道の楽しさにのめり込んでいき……。

何より弓道シーンが熱くてよかったです。怖いくらいに集中して、ひとつひとつの矢に心を込める過程がきっちり描かれていて面白かったです。

過去の偉人に憑りつかれ、教えを受けるというストーリーは王道そのもの。その王道を外さないまま進んでいきます。

それでいて、那須与一と主人公良治の師弟関係がきっちり描かれていたので、話の展開が読めても楽しく読むことができました。

お互いが目標を達成したラストは、うれしいと同時にしんみりして、読み終えるのが惜しかったです。もう少しふたりのやりとりを見ていたかったですが、ここで幕引きをするのが一番なのでしょう。

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板前さんが水族館で職員として働く『水族館の板前さん』

働いていた料亭が閉まり、無職になった主人公、浩介は、水族館の臨時職員として働くことになる。水族館の仕事に少しずつやりがいを見出していく浩介だったが、仕事は波乱の連続で……。

話を転がしていくのが非常に上手いです。読むほどに続きが気になっていく作品でした。ストーリーテリング能力を感じます。

地味になりがちなテーマなのに、ぐいぐい読ませてくれてとてもわくわくしました。中だるみするようなところもありませんでした。

印象的だったのが、主人公浩介とヒロインの志帆が「夢」と「願い」について話すところです。ここを中心に全体を見てみると、ふたりの「夢」と「願い」は密接にリンクしているんだなと感じました。

労働と、そこにまつわる人の心の動きをエンターテインメントとして昇華していくところが非常に良かったです。

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ひねくれものの少年は口先だけで王様を目指す『騙王』

妾腹の王子、フィッツラルド。彼は王になるべく商人、姫君、敵国の将軍と口先三寸で戦う。王になりたい彼の出生の秘密とは。そして王は誰を世継ぎに選ぶのか。

性格の悪いキャラクターを書くのがとても上手な人です。メインヒロインの美人で苦労している姫君が、立場が上であろう主人公にずけずけ言ったり、政略結婚を利用する気満々なのが最高。このヒロインだけで読む価値があります。こういう女の子大好きなんですよね。男の意のままにならない感じ!

一人を除いて腹に何かしら持っている人ばかりなので、そういう人たちが会話によって妥協し、利用しあい、協力し、戦うところが面白かったです。そんな感じで言葉がメインとなった話なので、会話文が多めです。

明るい話ではありませんが、痛快感は感じるのでストレス発散にいいです。主人公補正で上手くいっているところももちろんありますが、エンターテイメント性が強くて楽しかったです。

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以上です。興味があれば読んでみてください。