あらすじ・概要
仕事を失い就職活動中だった猪瀬成海は、日本橋にある紙問屋「雪魚堂」に迷い込む。そこは常世と現世の間にある店だという。ひょうきんな店主名代、魚ノ丞(なのすけ)に誘われ、そこで手伝いをすることになった成海。彼女はあやかしと人の心にまつわる物語を垣間見ることになる。
癒しに善も悪もなく、ただ自分を受け入れるだけ
あやかしものというのはたくさん出すぎていて、やれる題材はやりつくしてしまったところがあるのですが、この作品の世界観はなるほどそういうアプローチがあったかと思いました。
悩み惑う人が百鬼夜行であやかしに転じ、心を癒して現実世界に帰っていく。その情景描写の美しさも相まって、面白かったです。
主人公である成海の本当の悩み、苦しみが明かされたラストでは感動して少し泣いてしまいました。優しく不器用で、人をうまく恨むことができない成海が、自分自身を取り戻して歩いていく結末は優しく美しかったです。
癒しに善も悪もなく、ただ自分で自分を受け入れられるかというところが潔いですね。
ただちょっと残念なのは、要素が盛りだくさんすぎてストーリーがごちゃごちゃしてしまったところです。心理描写も説明的になりすぎている部分がありました。
テーマや世界観の構築が素晴らしいだけに、そこだけは惜しかったです。
ところで本編の面白さとは話がずれるんですが、作者には心理療法やカウンセリングの知識があるのでしょうか。結末が心理療法に出てくる「インナーチャイルド」「セルフコンパッション」の概念とすごく似てるんですよね。
別にパクリとか言いたいわけではなく、そうだったら嬉しいなというくらいです。私も興味があるジャンルなので。