ブックワームのひとりごと

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猫による社会が成り立つスペースコロニーで地球を目指す一匹の黒猫の話―秋山瑞人『猫の地球儀』

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猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

 

あらすじ・概要

「天使」が滅び、知性ある猫たちが暮らしているスペースコロニー、トルク。スパイラルダイバーの焔(ほむら)は、最強の名を手にした後、名前も知らない黒猫に敗北する。黒猫は「スカイウォーカー」と呼ばれる、猫の魂が行きつく場所、「地球儀」を目指す存在だった。

 

二人の天才による微妙で深い友情

久しぶりに読み返したのですが、やっぱりすごい作品でした。

 

登場人物は全員猫で、電波を飛ばすひげを持ち、その電波でロボットを操って文明を成り立たせています。表紙の美少女ももちろん猫。

主食はゴキブリとネズミ、ロボットの肩に乘って移動、独特の宗教観……などなど、「もしも猫が文明を持ったとしたら」という社会が丁寧に描かれています。

その世界観にぐいぐい引き込まれます。

 

また、この作品の魅力は、スパイラルダイバーの焔とスカイウォーカーの幽(かすか)の微妙で、だからこそ強い友情の物語であるところです。

ふたりは天才であり、他人(猫)とは価値観が違うからこそ孤立しています。そんな中お互いと出会って、反目し否定し合いながら、不思議な絆を結んでいきます。

また、ふたりの間で飛び回る牝の子猫の楽(かぐら)がまたふたりを結び付け、つかの間の安息をもたらします。

しかしその絆もまた永遠ではない、なぜなら彼らは天才であり、価値観が違うから……という堂々巡りの展開。

ラストの残酷さには叫びそうになりましたが、結局みんなが最善を尽くした結果であるのも確かです。美しいバッドエンドとはこのことだと思います。

 

電撃文庫の伝説に残る作品ですが、ライトノベル好き以外にはあまり知られていないのが残念です。